「2人で歩き始める」@







2016春、高校卒業、そして大学入学。
夜流は、確実に未来を自分の足で歩いている。夜流は周囲の反対を押し切って、あえて自宅から一番近い、レベルが低めの大学に進んだ。
夜流はてっきり国立大学か、最低でも近畿で有名な4難関大学に進むものと思っていた周囲は、彼がその大学の受験をうけ、他の難関大学や国立大学全てが合格しているにも関わらず、その大学を選び入学することに勿体ないとたくさんの声がかけられた。
両親の操り人形はやめて自分の人生を生きると決めていたのに、気づけば塾には通わなかったけれどいつも高校の成績はTOPクラスを維持し続けていた。進路指導の教師も校長でさえ、夜流の進学には期待していた。透のように、難関大学を受験してそのまま進学するのだと思っていたのだ。
高校3年の頃には、透にかわって成績はNO1のTOPを常に保ち続け、英検2級まで合格し、海外の大学への留学の期待も膨らんでいた。英語は、はっきりいって英検なんて関係なしに、普通にしゃべれるし、英語で難しい問題を出されても英語で論文を提出できるほどになっていた。
何度も模擬テストのような形式で、英語での難易度の高いテストを個人的に出され、それを夜流は間違うことなく全問正解する。ハーバード大学受験も夢ではない・・・校内でそう囁かれ始める頃には、夜流は一度自分が進むべき未来をあやふやにしていて、あきらのことを諦めて、海外の大学に通いながら、いつかあきらが目覚めるのを待とうかとも考えていた。

でも、だめだった。
あきらの顔を、病室であれ最低1週間に1回見ないと不安で不安で、あきらが永遠に自分を置いて何処かにいってしまう気がして。
ほとんど毎日、急な用事がない限りはあきらの病室に通ってあきらの顔を見て、そしておまじないのように、額にキスをして帰宅する。
透、マサキ、哲と遊び歩くことも少なくなった。

かわりに、透のマンションに入り浸ってそこで一緒に住んでいるマサキと、そして哲を呼んで雑談したりバカ騒ぎしたりはしていたけど・・・・でも夜流は、いつでも哀愁を帯びた目をしていた。
透もマサキも哲も、あえてあきらのことは夜流に触れないでおいた。
三人もよくあきらの見舞いにきてくれたいたし、本当にいい友人を持ったと思う。
夜流の進学先を聞いて驚いたのは哲だった。哲も、同じ大学を受験していたらしい。滑り止めではなく、第一志望校。公立の高校の、進学校ではない高校の大学進学率もけっこうシビアになってきている最近。
私立に通い、そのまま上の大学に進むのが一番安全なんだろうけれど。私立に通い続けるだけの財政的な余裕をもった家庭が多いわけでない。

大学入学・・・・人生の最後のレール。
卒業してしまえは、あとは社会人になるかフリーターになるかどっちにせよ、残り死ぬまで働いて生きていくのだ。親元で過ごして働かない場合も時には人によってあるだろうが、最後に一人になるのは自分なのだ。最後は、自分の力で生きていかなければならない。

大学の入学式を、哲のやつは早速さぼった。
首席のため、祝辞をするはめになった夜流はさぼろうにもさぼれないし、第一、さぼろうなんて考えていない。根は真面目な人間だ。
入学式が終わり、そのままスーツで夏樹家に帰宅すると、誰かが訪れているようだった。
「あきら・・・・誰かきてるのか?」
「俺だって俺!」
出てきたのは哲だった。
「お前なぁ、入学式さぼったろ」
「だってかったるいんだもんよ」
「はいはい、そうですか」
「あきら〜。そうそう、そのまま動かないで」
哲は、もっていた写真でシャッターを切る。

「何してんだ、お前」
「あ、俺?将来フリーカメラマンになるんだよ。被写体探してて・・・あきら思いついてさぁ。天使みたいに微笑んでくれるし。これ、多分コンクールに応募する」
「あんまり、あきらに負担かけるなよ」
「分かってるって!」
あきらは、ロングトトレートの長いかみをサラサラ靡かせながら、ふわふわと所在投げに視線を彷徨わせ、哲を見てにこりと笑う。
「哲。白井・・・・哲。俺の、友達」
「あきら!?俺のこと、思いだしてくれたのか?」
「うん・・・」
哲はびっくりして、あやうくカメラを落としそうになった。
ぽつりぽつりと、あきらは語る。
哲がどんな人物で、今までどんなことを2人でしてきたのか。
「すっげーぞあきら。いい子いい子・・・・じゃあ、こいつのことも覚えてるよな!?」
哲は興奮して、夜流をあきらの前に突き出した。

「あなた、誰だっけ?」

その質問に、哲はまたやってしまったと地面にしゃがみこむ。

「ごめん・・・夜流・・・・俺理解できないんだ。あきらが、夜流のこと忘れてしまったなんて。俺やマサキや透のことはこうして時折しっかりと思い出してくれるんだよ。本当に、なんの障害もないみたいに、昔の俺でも忘れかけているような細かいことまでしゃべってくれる。でも・・・お前のこと、ほんとになんにも覚えていないんだな・・・切ねぇよ・・・俺涙でそう・・・」
「立てよ・・・・全部、忘れたんじゃない。ちゃんと、夏祭りの金魚のことは覚えてくれてるよ、あきらは」
「でも・・・・それだけじゃないか。あきらは、夜流のこと、忘れちまったじゃねーか!なぁ、しっかりしてくれよ、あきら、あきら!!」
あきらを揺さぶって、哲は声を荒げた。

「哲、痛いよ・・・・」
「哲、やめろ」
哲をあきらから引き剥がして、夜流はあきらに自分の部屋へいくように命じる。
それにあきらは素直に従う。
「哲・・・・俺たちは、2人で歩き始めてるんだ」
「どういうことだよ?」
「言葉通り。もう一度、最初から2人で、ゼロから歩きはじめてる。ただ、それだけだ・・・あきらが俺のことを忘れても、俺は何度でもあきらに俺のことを教えてまた歩きだす」
哲は無言になる。
「切ないんだよ・・・お前ら二人・・・・見てると、心が痛いんだよ・・・・」
「それでも、俺たちは歩きはじめてるんだ」

哲は、夕飯を食べた後、自宅へ帰った。




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