「セカンド・ラブ」A







「スー・・・・・」
お昼になって、昼食を食べ終えたあきらは、昨日のことのせいもあり疲れているのかぐっすり眠ってしまった。
その間に、夜流はあきらの部屋で課題をはじめる。

カチカコカチコチ。
時計が秒を刻む音が、静寂の中やけに大きく聞こえる。
ボーンボーンボーン。
時計を見上げると、3時だった。
3時を告げる鐘の音に、夜流は大きく伸びをすると、目をこすりながら、あきらがこちらを見ていた。

「起きたのか?何かお腹すいてるなら食べる?」
茶色の大きなアーモンド型の瞳から、ポロっといつものように涙が零れる。
「あきら?」
「また、忘れた・・・・・えぐ、えぐ。あなたのこと、また忘れた・・・・・・思い、出せない」
「なんだ、そんなこと・・・」
「あなたはいつも優しい、こんな俺に。それが、俺には辛い」
「辛い?でも・・・・二人でいると、心が温かいだろう?」
あきらはこくりと頷いた。
「俺はあきらを愛してる。その事実は、何があっても変わらない。あきらが変わっても、変わらない」
「どうして・・・・あなたは、俺を選ぶの?」
「あきらだから」
それは、答えになっているようで答えになっていなかった。
「俺、分からない・・・・・ママとマナのことは覚えてる・・・哲とマサキと透のことも思い出した・・・・でも、あなたのことだけ、思い出せないの。断片的に思い出すけど、それが繋がりそうで繋がらない。思い出した欠片さえ・・・・俺は忘れてしまう。どうして、あなたは」
「あきらを愛してるから。セカンド・ラブ。もう一回、愛し合えばいい」
「セカンド・ラブ・・・・・」
あきらは、涙を拭って夜流に聞き返す。
「あなたは、それで平気なの?愛してる人に全て忘れられて、平気なの?」

「平気じゃない。心が破裂しそうなくらい、辛い」
「でも、あなたはいつも平気そうな顔して・・・・・・」
ポタポタと、あきらを抱き締める彼が、震えて泣き出した。
「俺だって辛い。泣き叫びたい・・・でも、そんなことしたって、あきらが完璧に戻ってくるわけじゃない。全てを思い出して・・・・そのままで、いてくれるわけじゃない・・・・・」
「・・・・・・・・・」
あきらは、暖かい涙を、自分の頬に降ってくる涙を指ですくいあげて。
「泣かないで・・・・・哀しい。俺まで、悲しくなる。あなたに泣かれると、心が痛い」
「あきら・・・・あきら、あきら、あきら!!」
いつも押し込めている感情があふれ出す。
「なんでこうなったんだよ・・・なんで俺のこと忘れるんだよ・・・思い出してくれよ・・・・」
「・・・・・・・・・・ごめん、なさい」
ぽつりと。
あきらはそう謝って、夜流を抱き締め返して、夜流の頭を撫でた。
夜流は、涙を流したまま、あきらの膝に頭を乗せて、目をつぶる。

「セカンド・ラブ」

あきらの声が聞こえる。
そのまま、あきらのほうから唇を重ねてきた。
驚いて、夜流が目をあける。もう、涙は止まっている。

「セカンド・ラブを・・・・始めた。俺は、歩き出してる。あなたと」
「ああ、そうだよ。俺はずっと、あきらと一緒に歩いていくよ」

「「セカンド・ラブを始めよう」」

二人は両手を胸の前で組み合って、もう一度触れるだけのキスをする。
「あなたが触れた・・・・唇が、熱い・・・・」
「俺も」
「ナイト・・・・・好き」
「あきら・・・・大好きだ」

セカンド・ラブ。
季節は、初夏の5月になっていた。
二人はそこから歩きはじめる。もう一度。

でも、二人は知らない。二人に訪れる結末の内容を。
指の間から零れ落ちるように、運命は近づいていく。
それは螺旋していく愛の軌跡。

二人はまだ18歳。まだまだこれからだ。いくらでも愛し合える。
でも、時は迫っていた。
二人に訪れる、結末へと。




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