「セカンド・ラブ」B







「おいで、みーちゃん」
「にゃ〜」
「みーちゃんっていうの?」
夜流が、夏樹家の庭に入ってきた野良猫の頭を撫でながらあきらを見上げた。
「うん。三毛猫だからみーちゃん」
「そのまんまじゃん」
三毛猫の子猫は、夜流の手の中でゴロゴロ喉を鳴らして全身を摺り寄せて気持ちよさそうにしていた。

「はい、ご飯〜」
小さな陶器のさらにキャットフードの缶詰をあけて、それと水が入った皿を一緒に、あきらは庭の芝生に並べた。
「かわいいな」
「うん。夜流が大学でいないとき、よく遊びにきてくれるんだ」
「飼わないの?」
もっともな意見に、あきらは悲しそうに目を伏せる。
「ママが・・・・動物嫌いだから・・・・ダメなんだ」
「そっか・・・・・」
「でも、庭でエサ与えるくらいならいいって、許可もらったの」
「よかったな」

あきらの頭を撫でると、あきらも猫みたいに喉を鳴らす。
もっとも、腰にくる高い声だったけど。

「みーちゃん飼いたいなぁ」
「最近この子猫、ずっと家の周りうろちょろしてるよな」
「うん。飼いたい」
「もうこれって、飼ってると同じなんじゃね?そうだ」
「何?」
「保健所なんかに掴まらないように、名前とここの住所いれたタグつけた首輪、つける?」
「え?・・・・・・ママ、怒らないかな?」
「瑞希さんのことは俺が説得するから」
「うん。じゃあ、この後ペットショップいこ!」
「いきなりだな」
「だってみーちゃんが保健所で殺されるなんてやだっ」

確かに、可愛がっている子猫が捕まってそのままガス室送りなんてかわいそうすぎるだろう。
「みーちゃん、名前みーちゃんのままでいいよね」
「いいんじゃないの?」
さんざんゲームのシーマンにぼろくそに言われた翌日の出来事だった。
今日からゴールデンウィークの始まりに近い土日の連休前の金曜日。大学の授業は、今日は平日で昼まであったので、夜流はちゃんと行ってきた後だ。
夜流に大学をさぼるという思考はないに等しい。
あきらの身に何かない限り、大学は休まない。

「じゃあ・・・・ペットショップいく?」
「うん」
あきらは急いで室内着からお出かけようの衣服に着替える。
夜流はそのままだ。
二人で夏樹家を出て、ドアに鍵をかけてちゃんと戸締りを確認してから、そのまま繁華街まで歩いて出かける。

「懐かしい・・・ここ覚えてる」
噴水のある広場のベンチの前にくると、あきらは茶色の目を閉じた。
サァァァと水を撒き散らす噴水の音が小さく聞こえた。
「そう・・・・ここは、ナイトと出会った場所。はじめて、ナイトと出会った場所だ」
少しずつゆっくりと、記憶を噛み締める。
あやふやな線が、季節をかけて一緒に過ごしていく度に、くっきりとしたクリアなものになっていく。
「覚えてたのか」
「ううん。思い出したの。今」
あきらの頭を撫でる夜流。とても優しいその黒い瞳が、あきらは大好きだった。
「そっか。ショッピングモールあそこだぞ。いこうか」
手を繋いで夜流が先にいこうとするが、あきらはそこから動かなかった。
「どうした?」
「キス、して」
「キス?」
「そう。サード・キス。ここでした。うん。おぼろげだけど、覚えてる」

夜流はあきらの顎に手をかける。
あきらは少しだけ背伸びする。
夜流は更に高校時代から身長が伸びて181になっていた。あきらは160のままだ。
二人はお互いの身長差を縮めて、舌を絡めながらキスを繰り返す。

「あふ・・・」
去っていく夜流の唇を見つめて、あきらは夜流につれられて、ショッピングモールの中のペットショップへとやってきた。
「かわいい」
ケージの中にたくさんの小動物がいる。
水槽の中には、アマゾンの熱帯魚がネオンの色を放ちながら泳いでいる。

「みーちゃんの首輪、こんなんでいい?」
「うん」
二人で選んだ首輪。

あきらは落ち着かない様子で、きょろきょろしている。
動物好きのあきらにとって、ここは天国のようなものだ。
夜流は小さく苦笑して、先に首輪を購入すると、あきらに囁いた。
「今日は、せっかくのデートだし・・・もう少し、ここにいようか」
「デート!」
あきらの頬が紅潮する。

そうか、これはデートなんだ。
大好きなナイトとの、デート。

 





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