「セカンド・ラブ」D








ゴールデンウィークに入った。
二人は、どこかに出かける予定もないまま、家でごろごろしていたけど、そこに押しかけるように哲とマサキと透がやってきた。
「おいおい、恋人二人こんなところで腐ってないで、ラブラブ旅行にでもでかけろよ〜」
茶化すマサキ。
「つーか、瑞希さんからあんま外出させるなって言われてるから」
「ああん、保護者は辛いね」
透が勝手にお茶をいれて、それをずーっと啜っていた。
「こら、透、お前人様んちきて何かってに茶いれてんだ。いれるなら俺たちの分までいれろー!」
夜流のお叱りの声に、透は舌を出して、仕方なく人数分のお茶を入れる。
「あきらかわいーかわいー」
マサキは、あきらの髪を解いて、三つ編みにして遊んでいる。
二人でキャッキャやってて、お前ら女子高生かとその場にいた二人以外はツッコミたくなったが、とりあえず放置しておいた。

「あのさ」
一人、輪の中に入らないで、哲はもじもじしていた。
図体はでかいくせに、もじもじする哲に、夜流は般若の表情になって一言。
「哲、キモい」
「ひでー!今の心臓にぐさっときた!!」
「あっはっは、哲髪の毛くくってあげるー!」
あきらが、髪ゴムを取り出して、哲をソファーに座らせると、ブラシで適当にまとめてちょんまげのように髪を結んでしまった。
「ぎゃははは、哲かっわいー」
「超かわいー!」
マサキと透は笑い転げている。
あきらは、ばんばんと床を叩いてそれから一言。
「か、かわいいよ?あきらより、かわ・・・・・・ぶほっ!」
セクシーポーズを決めた哲に、みんな酸欠状態になって吹き出す。

そして、また夜流は般若の顔で。
「哲、俺たちを殺す気か!笑い死ぬわ!!」
「なんだよ、なんで夜流般若なんだよ!」
「知るか!最近はまってるんだ!」
「ハマるものなのか、普通!?」
「ぎゃはははは」
「げらげらげら」
「あっはっは、夜流その顔キモかわいいー」
あきらはとても夜流のその可笑しい顔を気に入っているようで。何か眉を顰めるような顔があると、つい般若の仮面をかぶって、瑞希もそれを見て笑っていた。

夜流が夏樹家にきてから、あきらはかわった。明るくなったし、記憶障害も時間と一緒に乗り越えていっている。
すでに哲、マサキ、透のことはきっちりと覚えなおし、夜流に「あなたはだあれ?」と哀しすぎる言葉を投げることもなくなっていた。
ナイトと呼んで、とにかく慕ってくれる。

哲はまたもじもじして、手をあげた。
「はい、そこの哲くーん」
マサキが名前を呼ぶと、哲は立ち上がった。
「白井哲、19歳、彼女いない暦19年!!」
「おー!まさか、ついに彼女が!?」
哲は、すぐにあさっての方向を向いて、哀愁を帯びた表情になった。
「おい、それ禁句なって。哲には禁句!!」
夜流が友人たちがもちこんだポテチを食べながら嗜める。パリポリ。もうみんな、どうでもいいとばかりにポテチに手を伸ばす。
「うおおおおおおおおおおお!!」
男泣きを始めた哲を、みんな無表情で迎える。

「俺の、俺のおおおお、俺がとったあきらの写真が、なんと入賞しました!しかもグランプリ!!」

「うっそおお、マジ!?」
「すっげーー!!」
「哲見直した!」
「え?グランプリ?俺をとった写真?」
一人、状況を飲み込めないあきらが首を傾げている。そのあきらの手をとって、ぶんぶん握り締めて、哲は男泣きをまた始めた。
「すげーよおい!賞金30万だって!まじで賞金きたよ!」
「哲すっげぇ。でも、被写体があきらなのが嬉しい、俺」
夜流は、自分のことのように喜んだ。

そう、いつか哲が夏樹家に訪れたとき、将来カメラマンになるといってとったあきらの写真。
それをコンクールに応募したところ、哲ははじめての応募でいきなりグランプリを獲得したのだ。被写体のよさも無論あるだろうが、哲のカメラマンとしての腕が認められたことになる。

「室内でとったやつじゃなくってさ・・・・あきらが、庭に出て花に水やってるシーンのやつ、とって応募したんだ。綺麗に虹が出て・・・・それが選ばれたんだ。俺すげー嬉しい。あきら、今後もたまに被写体になってくれよな!
審査員がいうには、風景画をとってみたらどうだって言われて・・・俺、カメラマンとしてちゃんと歩きだしてるぜ!」
みんな感動した。

哲が出した作品には、ちゃんとタイトルがつけられていた。
麦藁帽子をかぶり、ワンピースとツインテールの髪を風に翻し、夜流のほうを向いて、満開になった庭の花に水をやっているときに、哲はシャッターを押した。
タイトルは「マリアの微笑み」
その微笑みは、誰にでもない、夜流ただ一人に向けられたものだった。



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