「忍び寄る波紋」A







「あきら・・・・機嫌はどう?」
「うん・・・大丈夫。ばかな真似して、ごめん」
「もう、こんなことするなよ?な、約束」
ベッドで眠っていたあきらの元に近寄って、夜流は小指をさしだした。
あれから2週間が過ぎた。
あきらの容態は大分回復し、精神安定剤を飲まなくても日常生活をできるようにまで回復したし、夜は睡眠導入剤をまだ飲んでいるけれど、不眠の症状はなくなった。
あきらと夜流は指きりをして、二人で静かなけれど固い約束をしあう。
「俺にはナイトがいるから」
「そうだ。お前には、俺がいる。だから、安心しろ」

「ナイト・・・一緒のベッドでねむろ?まだ、もうちょっと眠い」
「ああ」
夜流は、大学を両親に逆らい休学した。
期間は分からない。
1ヶ月かもしれないし、半年かもしれないしもしかしたら1年かもしれない。
あきらの周囲に常に気を配り、外出も避けている。

あれから怪しい封筒は届かなくなった。
悪戯電話とかそういうものもない。一体誰が仕組んだのかわからないけれど、事件は過ぎ去ったかのように思えた。
夜流が大学を休学して1ヶ月。
瑞希から外出許可が出て、夜流は塞ぎがちなあきらを連れてデートに出かけることも多くなった。

「あきら、今日はこのへんで帰ろうか」
「うん」
透のマンションに遊びにきていた。いつもはみんなが夏樹家にきてくれるのだが、たまにはこうして外出して友人の家に遊びにいくのもいい気分転換になる。
哲は夜流があきらのことで大学を休学しているのをとても心配し、知っていたけれど、マサキと透はその事実を知らない。余計な心配を二人にはかけたくないからだ。
危害が、マサキと透にまで及ばないとも断言できない。
犯人らしき人物は一人だけ夜流には思い当たる人物がいた。

名前は、雪白学。事件の全容が明るみに出た際に、夏樹明人の愛人の子供であり、明人と肉体関係を持っていたかつての高校の同級生。
でも、彼とは高校1年の頃のあきらの一時的な友人という以外に接点がない。自宅に押しかけても、何か情報が得られるわけでもない。

夜流とあきらは、手を繋いで歌を歌って、夏樹家に帰宅する帰路を歩く。
そして、夏樹家の前にきて、先に夜流が敷地内に入ると、夜流は血の匂いを感じ取り、あきらに敷地に入らず、動くなと命令して、匂いのもとをたどる。
半分腐ったような血なまぐさい匂い。
でも、匂いだけでは分からない。ふと芝生に血痕を見つけてその痕を辿る。
すると、痺れをきらしたあきらが夜流の側にかけよってきた。
その時、それを見つけてしまった。
「ダメだ、あきら見るな!!」
あきらの目を塞ごうとしたけど遅かった。あきらは絶叫した。
「いやあああ、こんなのいやあああ、嘘だああああ!みーちゃん、みーちゃん!!どうして、どうしてええええ、いやああぁぁぁぁーーーー!!」
芝生の中央に、無残にも首と胴体を切り離された子猫のみーちゃんの遺体が転がっていた。
誰かに殺されたのは一目瞭然だ。
「いやあああーー!!」
泣き叫ぶあきらは、夜流を押し切って、芝生に蹲ると、固くなったみーちゃんの生首を頬にあて、涙を流して切り離された胴も抱き締めて謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさいみーちゃん!俺がかわいがったばっかりに・・・俺のせいだ・・・俺が、みーちゃん殺したんだーー!!」
「ちがう、あきらのせいじゃない!!」
背後からあきらを抱き締める。それが夜流にできる精一杯のことだった。

「ナイト・・・なんでだよおお!ナイトは騎士でしょ!俺がみーちゃんかわいがってるの知ってたでしょ!みーちゃんも守ってよおお!!」
あきらは、どこにぶつけていいのか分からない怒りと哀しみを、夜流にぶつける以外方法が見つからなかった。
「あきら・・・・」
「やだよおお・・・みーちゃん生き返らせてよ・・・・ナイト、ナイト!!」
半分腐敗した子猫の遺骸を抱き締めて、あきらは泣き続けた。
「ちくしょおおお!!」
夜流もまた、泣いた。
同じように、みーちゃんをかわいがっていただけに、ショックは大きかった。
そのまま、夜流はあきらと一緒に庭の隅にみーちゃんの体を埋めて小さな墓を作った。近くの花屋で花を購入し、みーちゃんに捧げる。
「絶対許させねぇ!!」
「みーちゃん・・・・ごめんね、俺のせいで・・・まだこんなに小さかったのに・・・ごめんね、ごめんね・・・」
二人は、家の中にはいると、血なまぐさい匂いをおとすため、着替えてシャワーを浴びた。

「ううう・・・・」
あきらには精神安定剤を飲ませて、そのまま寝かせた。
それでもなかなか寝付けないようで、睡眠導入剤も飲ませる。精神的にショック状態の今は、眠って安静にするのしか方法がない。
「くそ・・・」
夜流は、自分も精神安定剤を飲んだ。ショックが大きすぎて、未だに飲み込みきれない。夜流もみーちゃんが大好きでとても可愛がっていた。あんな姿で見つかるなんて。
軽い睡魔が襲ってきて、夜流はあきらのベッドで、あきらを抱き締めて一緒に眠った。


二人を、こんなに苦しめる人物。
それは、以外にも近くにいた。


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