「日常」@







6月になった。
夏樹家の庭に植えられているいろんな花が満開になっていた。
あきらは、その花にいつも水を与える。
そして、庭の隅にたてられたみーちゃんのお墓に、庭で摘んだ花を少しだけ捧げる。
空は蒼く、どこまでも広がっている。

「なぁ、もっかい笑って」
夜流は、哲に影響されて写真を撮りはじめるようになっていた。
無論、全部あきらが被写体だ。
庭で花を摘むあきらを、パシャパシャと何回かシャッターを切って写真に収める。
「ナイト!今日はお庭でランチしよ!」
あきらは綺麗に微笑んで、くるりと長いスリットの入ったスカートを翻す。
「うん、いいよ」
パシャリ。
また写真を撮る。
あきらの今を、収めるように。

生きている耀きは、写真やビデオになら残る。
残り僅かな十代という時間を記録に残したかった。ただ、それだけ。
夜流専用の、あきらを撮ったアルバムができあがるのもそう時間はかからなかった。季節とともに、いろんな場所であきらと過ごし、そして写真を撮る。

さわさわと庭の緑が風に揺れていた。
庭の芝生にビニールシートを引いて、その上で夜流が作ったパスタを一緒に食べる。
夜流は今、大学を休学している。
入学してまだそんなにたっていないのに、いきなり休学だなんて両親から大反対された。友人も心配してくれたけど、今のあきらを守るためには仕方ないことだと思った。
あきらを蝕もうとする、見えない敵からあきらを守るために。

みーちゃんの事件があってから、幸いにもあきらに対する悪質な悪戯はなくなっている。
平凡な時間が過ぎ去っていく。
それがとても幸せなものなのだと、いつも気づく。
隣にあきらがいて、微笑んでくれて、そして二人で外出するとき、いつも一度空を見上げる。
「夜流、俺空になりたい」
「空に?」
「そう。空みたいに自由で広くって・・・どこまでも続いてる。誰の記憶からも絶対に忘れられない存在」
「じゃあ俺は大地になるよ。空をいつも見上げている大地に」
二人は手を繋ぎあって、ビニールシートに横たわった。
「少し寒い?それとも暑い?」
「うーん。ちょうどいいかんじ。冷房も暖房もいらない」
薄着のあきらに対して、夜流は上着を着ているせいで、昼の初夏の温度の暑さに負けて上着を脱いだ。
あきらはそれを受け取って、顔を埋めている。

「おい、何してるんだ?」
「夜流の匂いかいでるの〜」
「犬かお前は」
「わん」
あきらは犬の鳴きまねをする。

「いたっ」
「どうした?」
「ペンダントのチェーンが髪にからまった」
「かしてみろ」
背中半ばあたりまで長くなったあきらの髪にからまった、ペンダントのチェーンから髪をなんとかほどいて、サラリと後ろに髪を流す。
「髪、長くなったなぁ。切らないのか?」
「短いほうが、夜流は好き?」
大きなアーモンド型の瞳であきらは見つめ返してくる。
「うーん。長いほうがすきかな」
正直に答えると、あきらは自分の今日は結んでいない髪を手で撫でる。
「じゃあ・・・・もうちょっと伸ばす。夏になって暑くなっても切らない」
「おいおい、いいのか?」
「だって、ナイト長いほうが好きなんでしょ?だったら長いままでいいや」
「夏になったらさ・・・瑞希さんに許可もらって、二人でどっかそうだなぁ、沖縄とか南のほうに旅行いこうか。うーん、でもそれだと暑いな。北海道が涼しくていいかなぁ」
「ナイトと二人きりで旅行!?」
「ああ、まぁ許可が出たらな」
「うん、行きたい!絶対一緒に行く!」
あきらは嬉しそうにもうはしゃいでいた。

ずっと旅行なんていったことがないらしい。
だから、初めての旅行にどうしても行きたいのだと、あきらは語った。

 




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