「日常」B







「あきら、帰るぞー?っていないし!」
夜流は、あきらがいた場所を見て、いなくなっているのに焦った。
「あきら!どこだ、あきら!!」
慌てて店内に戻り、あきらを探すがいない。
店内にいないとなると、外か。
あきらが夜流を置いてどこかにいくなんて、滅多にない。目を離すとふらふらどこかへ行ってしまうような行為もしないあきら。
まさか、誘拐でもされたのかと、夜流は青ざめる。
それともナンパされて無理やり連れていかれたとか。
とりあえず、落ち着いてあきらの携帯にかけると、すぐに応答があった。
「あきら、どこだ!」
「うん?遊んでるの」
「どこで!」
「美恵子ちゃんちの前!!」
「はぁ!?」
携帯はすぐに切れた。

「あきら!」
夜流は着た道を走り出そうとして、こけた
「いちにのさん、ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ」
ユニクロのすぐ近くの民家の前で、小学生の女の子に囲まれてあきらが縄跳びをしていたのだ。
「ジャンプ、ジャンプ、ハイ次!」
いわゆる長縄跳びというやつか。
あきらはスカートを手でもって、ジャンプし続けている。
「美恵子ちゃん、次幸江ちゃん!」
長縄跳びを勢いよくまわす女の子が、次の女の子の名前を呼ぶ。
そして、みんな次々にその縄跳びの中に入っていく。
「1、2、3、4〜」
あきらは女の子たちと一緒に、回数を数える。
「26、27、28〜」
まだ続いている」
「35、36・・・・・うわあああ」
ぽてり。
あきらがこけた。
「あーん、お姉ちゃんこけたー!」
「もう少しで新記録いけたのにー!」
「お姉ちゃんのバカー!」
こけたあきらは、美恵子ちゃんという名前の小学生に手をさしだされ、その手を握って起き上がる。
「大丈夫、お姉ちゃん?」

「うーん、お兄さんは最近あんまり運動してないから・・・ゼェゼェ、息きれるこれ。あ、ナイト!」
走って近寄っていく夜流は、頭を抱えそうになっていた。
「お前・・・・何してるんだ」
「見ての通り、小学生の女の子と一緒に遊んでるの!」
無邪気にあきらはほらと、すぐに仲良くなった小学生の女の子たちを紹介する。
「こっちが美恵子ちゃん、んで並んで幸江ちゃん、なずなちゃん、真理ちゃん、ゆかりちゃん!んでこれはナイト!俺の旦那さん」
「お姉ちゃん、旦那様いるんだ!」
みんなが羨望の眼差しで、夜流を見上げてくる。
なんだ。なんだこの展開は。

「あ、俺、何度も言ってるけどお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃん。これでも男だから!ついてるよ!」

「何が〜?」
みんな首を傾げて聞き返してくる。

「なにって、そりゃキンタ・・・・もがーー!!」

夜流に口を手で塞がれて、あきらはもがくけど、夜流はにっこり笑って小学生の女の子たちを集め、あきらの口を塞いだまま感心を他にずらそうとある提案をした。
「あきらと遊んでくれてありがとうね。そうだ、みんなでおままごとでもしようか」
「わー!お兄ちゃんも一緒に遊んでくれるの?」
「お菓子ももってきてるよ」
「わー、嬉しい!!」
みんなきゃっきゃとはしゃぎだす。
あきら用に持ってきたお菓子なんだけど、この際どうでもいい。
あきらの危うい変態のような発言を全てうやむやにするためだ。

女装しておいて、自分で男だと告げる時点でやばい。あきらは平気で自分が男だと、いつもは言わないのにある時思い出したように口を滑らせる。
それにしても恐るべし、あきら。
まさか少し目を離した間に、小学生の女の子と打ち解けて遊び出すとは。
ある意味凄いけど、危なっかしい。
目を離したら何をしでかすか分からないというほどではないけれど、時折こういった突拍子もない行動に出ることもあるので注意しなければ。

***************

その頃、ユニクロの店の中では、まだ本当は休憩時間の蓮見健太郎が、黒い笑みを浮かべていた。
「将来結婚するだぁ?その仲、壊してやるよ。俺が」

 




NEXT