「日常」C







「パパ、小遣いちょうだい!ママ、ご飯まだー?」
あきらと夜流は、小学校の女の子たちに紛れ、美恵子ちゃんちの庭で本当におままごとをしていた。
あきらもいるので、ちゃんととりあえずは美恵子ちゃんの母親に断りをいれている。美恵子ちゃんはお母さんにこのお兄ちゃんとお姉ちゃんと遊ぶの!と我侭をいって、美恵子ちゃんのお母さんは時々様子を見るということで、あきらと夜流を自宅の庭でみんなと一緒にママゴトをするのを許してくれた。
無論、夜流がイケメンなのがかなり効いていた。
二人は共に携帯電話の自分のアドレスを見せて、何かあったらきちんと責任をとると言った。身元の確認にはならないが、美恵子ちゃんの母親を安堵させるのには成功した。
くわえて夜流にはあきらという美少女にしか見えない恋人がいるので、子供に悪戯などしそうにはないだろうという安心感もついてくる。

夜流はみんなのお父さん、無論お母さんはあきら。
ゆかりちゃんが隣の奥さんという、なんとも微妙な設定だ。
他の女の子たちは、みんな夜流とあきらの子供という設定。
「はいはい、パパは今月給料が下がったので小遣いはもう少し待っておくれ」
夜流は真剣にままごとに付き合っている。
それが小学生の女の子たちにはおかしくてたまらないし、嬉しいのだ。
みんな小学生低学年。こんな年齢の大人に近い男性とこうして遊ぶことなんてまずないだろう。
「パパ、お給料また下がったんだ!そのうちリストラだね!そしたら、タクシーの運転手さんに転職して、一家は大変。あたしたちもバイトして、家計支えないといけないんだー」
「うご・・・・今時の子供って、リアルだなぁ」

あきらは先ほどからお母さんらしいというか、お父さんらしく振舞っている。
美恵子ちゃんがもってきた新聞を広げてそれを読んで、からの空き缶をお茶として飲んでいるふりをする。無論あぐらをかいている。
「ママ、おっさんくさ〜い」
「違うよ美恵子ちゃん。これが今時のヤンママのスタイルなのだよ!」
「そうなの?ヤンママってな〜に?」
「んとね。ヤマンバの仲間
あきらは本気で言っていた。自分でいって、自分でヤンママの意味を理解していなかった。
ヤンママの意味を知っている女の子たちは爆笑する。
知らない美恵子ちゃんに、夜流はよく分かるように説明してあげた。

「お母さん、ご飯まだ〜?」
真理ちゃんが、あきらの服をひっぱる。
「ご飯は・・・・ポッキーです!」
夜流が取り出してくれた、自分用のポッキーをみんなに与える。
「わーい。今日のご飯はおやつだー」
なんとなく、餌付けしている気分になってくる。
「ママ、真理昨日テストで90点とったの!褒めて褒めて」
「おー、偉いね真理ちゃん。ママの分のポッキーもあげる〜」
「えへへ、ママに褒めてもらったー」

「ちょっと、奥さん、聞いてよ。隣の旦那さん、また浮気したんですって」
隣の奥さん役のゆかりちゃんが割り込んできて、世間場話を始める。
「そりゃ許せない。ナイトが浮気したら、裸でぐるぐるにしばった挙句、ネクタイだけ絞めさせてフルチンで町内引き回しの刑だ」
夜流は、その言葉にぞっとした。
あきらならやりかねない。
というか、なんという残酷な刑だ。男性は普通暴力的な思考にいく。だけど、あきらのそれは女性のように陰湿ないじめっぽい。
「ねーパパ、フルチンってなーに?」
「お、覚えなくていいからね、みんな!!」
みんな、流石にフルチンは意味が分からないらしい。
ちなみに、このままごとが終わったあと、みんな親に「フルチンってなぁに?」と夕飯のとき尋ね、みんなの親が食事を吹き出すはめになるのは、また違うお話だ。

みんなでわいわい、ママゴトをして遊んだ。
あきらは完全に童心にかえっている。
夜流も、昔女の子と一緒にママゴトをしたことを思い出していた。

何はともあれ、日が暮れてきたので今日はここでおしまい。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、また遊びにきてね!!」
「またねー!今日楽しかったよ!また遊んでて!」
真理ちゃんは携帯をもっていたので、あきらとアドレスを交換していた。

「みんな、まったね〜」
あきらは上機嫌で、小学生の女の子たちに別れを告げると、夜流と一緒に自宅への道を歩き出す。
「みんなかわいかったね」
「うん」
「あんな風ににぎやかな家庭がいいな」
「あきら?」
「結婚したら、俺がんばっていっぱい産むから!」
「いや、それはちょっと無理が・・・」
「最初は男の子がいい?」
「いや、女の子がいい」
もう、あきらに無理というのはやめよう。夢はあるから美しく儚いのだ。
「にぎやかな家庭にしたいなぁ」
思い馳せる夢の未来。

果たして、それはかなえられるのだろうか。
運命の螺旋は、一刻一刻と、近づいてきている。
そう、定められたその日へと。



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