「もう一人のナイト」@







あきらが目をあけると、隣にはナイトこと夜流が眠っていた。
「ナイト・・・・ずっと、側にいてね」
あきらは、深い眠りについた夜流の髪をかきあげる。
綺麗な金髪だった。
お日様みたいだ。
太陽の光を浴びれば、母親瑞希の髪のように透けてキラキラ輝く夜流の髪が、あきらは大好きだった。

「ナイトがいてくれたら、何も怖くない・・・・から」
あきらの携帯に誰のものかも分からないメールが届いていた。

(如月夜流と別れろ)

そう簡潔に書かれた文章を、あきらは消した。削除してしまった。
でも、差出人の名前は書かれてあった。
蓮見健太郎。

夜流の、友人の一人。
そう記憶していた。
ユニクロの店で店員のアルバイトをしていた爽やかな印象の青年だった。

「負けないから・・・・マナ、見守っていて!」
すでに他界してしまった姉に向けて、祈りを捧げる。

どんな障害があっても、この恋はこのまま成就してみせる。
夜流と将来結婚して、幸せな家庭を築くんだ。きっと、アメリカで結婚式をあげて、ささやかにマイホームを建てて二人で暮らしていくんだ。

あきらの家は資産家だ。
アメリカにマイホームを、あきらのためなら、母親の瑞希は喜んで建ててくれるだろう。もともと、別荘がないのが可笑しいような家柄だ。
ハワイや軽井沢あたりに幾つも別荘があってもおかしくはないだけの、富をもっている。
夏樹家は夏樹コンツェルンとも呼ばれ、それ一つが大きな企業の集合体でもあった。それを仕切っているのはj会長でもある祖父の夏樹義人(ナツキ ヨシト)と社長である母の瑞希だ。

本来ならあきらがその跡を継ぐべきであったのだが、そういう教育も受けていないし、記憶障害があるあきらには跡を継ぐことなど不可能だろう。
きっと、祖父のことだから血縁者の中から跡を継ぐべき者を見出すか、養子をとるかもしれない。
祖父の義人はあきらのことに関心がない。
瑞希を愛してはいるし、あきらもそれなりに愛してくれてはいるが、でもどこか違和感がある。

明人に虐待されていると知った義人は、あきらを遠ざけるようになった。
同じように、生きていたマナも。

二人は、双子としてお互いを庇いあいながら生きてきたのかもしれない。
マナがいたからこそあきらがいて、あきらがいたからこそマナがいた。
最愛の姉は、もうこの世界にはいないけれど。

でも、また最愛と思える存在を手に入れた。
ナイト。
それが、あきらの愛する人。
名前をまだうまく記憶できないけれど、ナイトという響きだけは決してあきらは忘れなかった。

「ナイト・・・・愛してるよ」
蓮見健太郎のメルアドに、あきらはメールを送信した。

(いやだもん、バーカ)
子供じみた内容のメールの文。
でも、今のあきらにはそれが精一杯だった。
夜流にいらない迷惑をかけたくない一心で、あきらは蓮見健太郎のことを夜流に話すことはなかった。
夜流に守られて、隠れた場所であきらは一人で闘い始めていた。

「俺だって、男だ!大切な人を守るんだ!」
あきらは、長い茶色の髪に指を通しながら、マナの形見である黄色いリボンを机の奥から取り出すと、それにキスをして、また祈る。
「マナ、俺に、力をちょうだい。マナに守られてばっかりだったね、俺。でも今度は、愛する人を俺が、自分の手で守るから。守ってみせるから」

「う〜ん」
夜流があきらの声に起きそうになった。
あきらは、慌てて黄色いリボンをしまうと、夜流に薄い毛布をかけてやった。

 






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