太陽の花嫁







やがて、また使者がやってきた。その中に、真那王が紛れていた。
そんなことに、亜沙王も王妃も、花嵐も星嵐も気づくことはなかった。

団体でやってきた使者を出迎えたのは、姫の衣装を纏った花嵐であった。
「よくぞ冠羅までお越しくださいました。私は花嵐。お見知りおきを」
使者たちは、花嵐のあまりの美しさに言葉を失った。彼が少年だと疑う者もいなかった。真那王さえ、これが自分のものになる姫かと、心で打ち震えたほどであった。
真那が、真国の王であるということは伏せてあった。だが、ついに決心をつけたかと、真那は自ら、真国の王であると花嵐に名乗った。

「私が真国国王、真那だ。お前の夫となる者だ」

真那は、花嵐を攫うように腕の中に抱く。
「真那・・・・様」
「そうだ。お前は太陽の花嫁だ。これほど美しいとは・・・・」

気配を察したのか、他の家臣たちが部屋を出て行く。愛妾にするために、姫を迎えにきたのだ。この時を待っていたのだから、真那も心がざわついた。
ソファーに花嵐をそっと押し倒して、亜沙王がまた否だと言い出す前に既成事実を作ろうと真那は思った。そうれば、この美しい姫は自分だけのものになる。

「こんな場所で・・・・王、いやです」
「散々じらさせたのだ。いいだろう、このくらい」
ドレスの裾をたくしあげられて、かっと花嵐は頬を紅潮させて、思いきり真那を突き飛ばした。
「このケダモノが!!」
「おやおや・・・太陽の花嫁は、相当元気だな」
「うるさい!お前なんかがいなければ!!」
涙を零して、花嵐はきっと真那を睨むと、隠し持っていた短剣を取り出した。
「威勢がいい」
すぐに手を戒められて、花嵐は持っていた宝石細工の美しい護身用の短剣をカツンと床に落とした。

「処刑ものだぞ。分かっているのか?」
軽く花嵐の首を絞める真那。そこに、衣装箪笥に身を潜ませていた星嵐が飛び出てきて、真那を体当たりで突き飛ばすと、花嵐を庇った。
「だめ。花嵐に手をださないで。花嵐はこの国の王太子。輝かしき太陽の王子」
「やっと出てきたか」
真那は、よろめきもせずに立ち上がった。
衣装箪笥に誰かが潜んでいるのは分かっていた。だが、まさか姫自らこのように、自分の命を狙うとは思ってもいなかった。
多分、衣装箪笥に忍んでいるのは護衛だろうとも思っていた。

だが、出てきたのは水色という稀有な色の髪を長く伸ばし、綺麗に結い上げていた中性的な少年とも少女ともつかない存在であった。衣装も、花嵐と同じものを着ていた。どこか、花嵐と似通った顔。凛とした美しさは、月のようでもあった。
花嵐が長い銀髪を背に押しやって、星嵐を抱き寄せる。花嵐は太陽、そして星嵐は月と宮殿内でもそう比喩される美貌の違い。
「星嵐は渡さない。星嵐は、私のものだ」
「・・・・・・・星嵐か。で、どちらが私の花嫁になるのだ?」
二人とも、姫の衣装を纏い、綺麗に髪を結い上げている。美しさは花嵐のほうがくっきりしているが、月下美人のような星嵐の美貌にも、真那は心の中で感嘆した。
どちらであれ、愛妾にするには申し分ない容姿である。身分もある。問題は性格か。

花嵐を庇っていた星嵐を押しのけて、花嵐は落ちていた短剣を再び手に、星嵐を守ろうと必死だった。

「この国から立ち去れ!忌わしき王め!」
「花嵐・・・・だめだよ。もう、決まったことだから」
「でも!!」
涙を零す半身を抱き締めて、星嵐は花嵐の手から短剣を奪うと、真那に向けて放り投げた。

「花嫁となるのは僕です。真那王。冠羅第二王子、星嵐と申します」
「第二王子?そうだ、さっきこっちも王太子といっていたな。これで男か?」
真那は二人を頭からつま先まで見て・・・・首を捻った。
どちらも王子だという。では、姫などこの国にはいないのか。否、いる。だからこそ、亜沙王は頑なに拒んできたのだ。
そう、ここは冠羅。太陽の国ではないか。太陽の子がいる。そう、両性が!

「兄は太陽・・・弟は月・・・本来ならこちらの花嵐がそうだと思うところだが。お前がそうか。両性だな」
「・・・・・・・・・」
星嵐は無言だった。きっと顔をあげて、花嵐は叫んだ。
「太陽の子だ!私の妻となる者だ!」
「そういえば、冠羅は双子ならば血が繋がっていても結婚できるのだったな。面白い」
「何を!」

星嵐は、真那に手を引かれてその場に組み敷かれた。

「何をする、星嵐を離せ!!」

絶叫に近い、花嵐の悲鳴。
「本当に太陽の子か確かめるだけだ」
「あ・・・・いやああっ!!!」
衣装の裾をたくしあげ、星嵐の着ていた下着を短剣で切り裂き、手を忍ばせて、誰にも触らせたことのない秘所を弄られる感触に、星嵐は泣き叫んだ。
こうなる運命だと分かっていても。
「いや、いやああああ!!!」
男の手が、星嵐のまだ未熟な少女の花弁をなぞり、次に少年のものであるものをなぞるように触れていく。
「やめて!」
指先が、潤うことを知らぬ花弁にゆっくりと沈む。

目の前で愛しい半身、将来は妻にすると決めた星嵐が陵辱されていくのに、花嵐は息を潜めて涙を零した。これ以上、この王を怒らせると、本当にこの場で星嵐が犯されてしまう。
自分の目の前で。

「止めろ・・・・お願いだ。止めて下さい。星嵐を汚さないで・・・・」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を見て、真那は笑った。
「確かに両性だな。両方ある。神秘の姫か。これが私の花嫁だ」
「もうやめて・・・・」
顔を覆って泣く星嵐の衣装を元に戻して、真那は星嵐の手をどけると、唇を奪った。
「ンウ・・・・っあ」
唾液が床に滴りそうなくらいに深い口付けを受けて、星嵐は恐怖に麻痺した思考のまま、ゆっくりと目を閉じて、そのまま意識を失った。

「太陽の花嫁・・・・確かに、貰いうけたり」

その時、亜沙王が騒ぎに気づいて扉を開けた。そこで見たものは、憎しみに瞳を揺らしながらも、真那王の腕の中にある星嵐から目をそらせずにいる花嵐の姿と、力なく真那の腕の中に横たえられて、涙を零したまま、水色の目を閉じた星嵐の姿であった。
花嵐と星嵐は同じ水色の瞳をしている。生まれてくる両性はほとんどが蒼銀に近い色素を有するのだが、水色の色をもつ両性は特に稀有で貴重であり、何より太陽の子そのものであった。

「星嵐・・・花嵐・・・真那王、これはどういうことだ!いくらなんでも横暴ですぞ!」
「何、自分の花嫁が太陽の子と知って、本当かどうか確かめただけさ」
その言葉に、亜沙王が身を震わした。
星嵐を、互いに愛し合っている花嵐の前で、両性かどうか確かめたというのか。
なんという屈辱。
だが、それに従うしかない。否を唱え続けていたが、星嵐が両性として知られた今、花嫁として真国に嫁がせるしかない。そうしなければ、真那王は力ずくで星嵐を奪っていくだろう。


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