お茶会







2回目の夜の渡りを終えたという、星嵐のことはすぐに後宮中に広まった。
そのまま、3回、4回と連続して真那に星嵐は求められた。

ここ数週間、星嵐がきてからというもの、他の寵姫を真那が求めることがない。寵姫のほうから誘っても、今日は星嵐を選ぶとつっぱねられる。
女たちの嫉妬の炎が燃え上がるには十分だった。

「寵姫たちでお茶会を催すの。あなたも来てくれるわよね?」

水音祢が、そう珍しく星嵐を誘った。
星嵐は、優しい態度の水音祢の言葉に嬉しくなって、素直に頷いた。
招かれた茶会には、他の4人の寵姫たちも来ていた。皆女官を連れていた。星嵐も女官を伴っていたが、場を仕切っていた水音祢の言葉で、星嵐の女官は部屋に帰された。

「この前は罵倒してごめんなさい」
「本当に」
「仲直りしましょう」
「とっておきの紅茶を用意したのよ」
「うふふふ」

5人の寵姫たちは、妖艶に笑って、星嵐に高そうな白磁のティーカップを持たせると、それに紅茶を注ごうとする。
でも、液体は出てこなかった。
かわりにでてきたのが、にゅるにゅるとしたミミズ。
こげ茶色のなんともいえない汁が白磁に滴る。

「あ・・・・」

「さぁ、飲んでちょうだい。飲んでくれるまで帰さないわよ」
「そうよ」

周囲を寵姫たちに囲まれる。

「いやです!」

きっぱりと、星嵐は否定したけれど、寵姫たちは無理矢理星嵐の口の中にミミズを入れた。
「ぐ・・・・けほっけほっ」
すぐに吐き出したが、また寵姫たちがミミズを飲ませようとする。

「まぁ、かわった紅茶だこと。蠢いてるわ」
「あなたにぴったりね」

星嵐は、涙を流してまた口の中からミミズを吐き出した。だが、ミミズを切り刻んだ汁のなんともいえない液体を飲んでしまった。今すぐ、胃の中のものを戻したい気分だった。

「あ、あ・・・・・いやあああああああ!!!」

がっしりと身動きがとれないようにされて、またミミズが蠢くティーカップが近づけられて、無理矢理に口を開かされた。

カッ。

一瞬の出来事だった。
水色の瞳が真紅に変わり、風が吹いた。
大きな竜巻のような衝撃が、星嵐を中心に襲い掛かる。

「なに!」
「きゃああああああ!!!」
「これは何!?」
寵姫たちは、風に吹き飛ばされまいとするが、風の勢いで転んだ者まで出た。
驚いた寵姫たちは、星嵐を解放してしまった。
星嵐は、その場に蹲って泣いていた。

まさか、星嵐には霊力があるのではないか。霊力のある者は不思議な力をもち、術を使ったりする。そう、こそこそと言いあう寵姫たちと女官たち。
ゆらりと立ち上がった星嵐は、真紅の瞳を瞬かせて、口元をぐいっと衣装の袖で拭き取ると、口を開いた。

「我が子を泣かせるな」

それは、真国で崇められている太陽の女神、陽緋(ヨウヒ)の姿に酷似していた。陽緋は、普段は温厚で、水色の長い髪にオパール色を秘めた水色の瞳をしているが、怒ると瞳が真紅になるのだという。
太陽神殿などで、巫女に陽緋が舞い降りた時の現象に酷似していた。
霊力ある、資格ある者だけに舞い降りる太陽の女神、陽緋。

ぶわりと風が広がると、その場には気を失った星嵐が倒れていた。体に幾つもの抗ったときにできた痣がある。
流石にこれはまずいのではないかと、女官たちが言葉を交わす。
今日も、もしかしたら星嵐は、また陛下に夜を求められるかもしれないのだ。

目立つ傷をつけてはまずい。
だからこそ、嫌がらせといっても、殴ったりといった暴力的なものはなく、陰湿なものが多かったのだ。

そのまま、呼びつけられた宦官に抱きかかえられて、気を失った星嵐は部屋へと戻された。無論、宦官には金を掴ませてきっちりと口止めをしておいて。

「あ・・・・?」
目が覚めた時、誰もいなかった。与えられた部屋の寝台に寝かされていた。水音祢に誘われた茶会に着ていった服は、どこにも見当たらなかった。真新しい絹の美しい夜着を着せられていて、全ては夢だったのではないかと星嵐は思った。
「夢?お茶会・・・・どうなったんだろう」

すると、体の奥で冠羅で巫女として降ろした太陽神、陽緋(ヨウヒ)の言葉が優しく響いた。

(お前は太陽の申し子。守ってあげるから、今はお休み)

陽緋が気に入った両性に宿ることは、冠羅の歴史にも刻まれていた。まさか、それが自分の身に起こるなんて、巫女の行事をした時に降ろしてやっと信じることができた。

「陽緋様?僕を庇ってくださったのですか」

(いいから今はお休み)

「ありがとう、陽緋様。太陽の女神に栄光あれ」
星嵐も太陽神を信仰しているが、他の太陽神殿の巫女が陽緋を宿す姿を見て、いつか自分も宿してみたいと子供の時には憧れたものだ。
両性であれば、巫女でなくとも陽緋を宿し、会話する資格あるとされている。
まさに、太陽の申し子と冠羅でも歌われた星嵐は、陽緋を宿すには最高の巫女であり、そして陽緋が守りたいと思わせる悲しい子供であった。



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