鞭打ちの刑といっても、寵姫なので10回程度のものだ。皮膚が裂けるような本格的なものではないが、処罰をきちんと受けて、牢から出され、謹慎処分を言い渡された星嵐は、はじめて、痣ができるほど殴った百合の顔が酷いことになっていると聞いて、胸の中で喜んだ。 こんな醜い人間に、いつの間になっていたのだろう。 「う・・・・」 最近吐き気が酷い。どうしてだろう。分からない。 そこに、真那がやってきた。 「星嵐。謝罪はする気はないのか」 「ありません。僕は犯人ではありません。多分、百合姫ですから」 「百合が誕生の宴の日にそんなことするはずがないだろう!自分の部屋で、百合が自作自演したというのか?お前が殴ったせいで、百合の痣は酷いことになっている。腫れものまでできて、美しい顔が台無しだ」 「そうですか。いい気味です」 「星嵐!!」 パンと平手で殴られて、星嵐は自重気味に笑った。 「次はどうしますか?拳で殴りますか?なんでもいいですよ。でも、僕じゃない」 「だったら、誰が犯人だというのだ」 「だから、百合姫です」 「あくまでお前ではないというのか。百合は確かに残酷な部分もあるが、あそこまで酷いことをする女ではないはずだ」 「女という生き物はね、嫉妬でどんな風にも醜くかわるんですよ」 「今のお前のようにか」 「・・・・・・・・・僕は、嫉妬などしていません。それに女じゃありません、男です。冠羅の第二王子です」 「私から見れば、今のお前が一番醜い」 星嵐は、涙を零してクッションを真那に投げつけた。 「あなたに分かるもんか!僕のことなんて!冠羅に返して!僕を冠羅に返して・・・・」 最後はすすり泣くように、力ない星嵐の反抗に、真那も眉根を寄せた。 「あなたになんか・・・・・ぐう・・・・」 「おい、どうした?」 「なんでもな・・・・」 ぐらりと傾ぐ星嵐を抱きとめる。以前より更に細くなった気がする。 星嵐を抱きとめた瞬間、そこに星嵐はいなかった。いたのは陽緋であった。 「な・・・・お前は、まさか」 「そのまさかじゃよ、王よ。我が名は陽緋。太陽の女神」 真紅に光る瞳で立ち上がると、威圧する視線で真那を睨み付ける。 「何故、今!?」 「可哀想に、太陽の申し子とまで言われたのに、今はこのように苦しんでおる。お前の子を宿してしまった。なのに、お前はそれに気付きもしない」 「子を・・・宿しただと?」 「そうじゃ。それなのに、お前は気付きもせぬし、この子を責めてばかりじゃ。この子の言っていることは正論じゃよ。全てはあの百合という寵姫がたくらんだこと。星嵐は何もしておらぬ。真実しか言っておらぬよ。なのにお主は星嵐を責め、暴力を振るい、牢にいれて鞭打ちの刑にまでした。お前にもう、この子を愛する資格などないと見てよいな。冠羅に返してやれ。太陽の女神である陽緋の命令じゃ」 「太陽神の命令・・・・」 真那は、初めてそこで自分がしてしまったことに後悔した。 「許してはもらえないのか、陽緋!」 「許さぬも何も、お主がここまでこの子を追い詰めたのだろう。冠羅に戻りたいと」 「それは・・・・」 言葉を飲み込む。陽緋は、星嵐の体を明け渡すと、こう囁いた。 「もう遅いよ、真国の真那」 じわりと、星嵐の下半身に血がにじんでいるのに気付いて、真那は陽緋に出会った衝撃から我に返り大声をあげた。 「誰か、医師を!!医師を呼べーーーー!!!」 陽緋は太陽のように明るく星嵐を照らした後、天に戻ってしまった。 「くそ、星嵐、しっかりしろ」 腕の中の星嵐は蒼白い顔で身動き一つしない。 すぐに医師が呼ばれた。 医師たちは、すぐに星嵐に処置を施してから、血でぬれてしまった衣服を交換させた。 「それで、星嵐の容態は?」 「容態は、大丈夫でしょう。心労ですな。確かに懐妊されておいででした。本来ならおめでとうございますというべき場面ですが、残念ながらお腹の子の方は・・・・」 医師が口ごもる。 その後に続けられた言葉に、真那は初めて涙を零した。星嵐のために。 数日、星嵐は熱を出して寝込んだ。真那は執務の傍ら医師に任せず、自分で星嵐の看病をした。寝る間も惜しんで。 それがせめてもの贖罪のようであった。 「あ・・・・」 目が覚めたとき、星嵐の側には疲れた顔の真那がいた。 「良かった。やっと目を覚ましたな」 「・・・・・陽緋が、教えてくれたの。僕に、子供ができたって。でも、そんなものいらない!あなたの赤ちゃんなんていらない!冠羅に返して!!」 顔を覆って泣き叫ぶと、真那は星嵐の頭をなでて、同じように涙を零した。 NEXT |