宮殿で、那伊は父王に謁見し、盗賊退治を終わらせたことを報告すると、部屋に置いてきた藍零の元にすぐに戻ってきた。 「さてと。まずは風呂だ」 「あ・・・・自分で入れます」 「私が洗うといっただろう。こんな長い髪、自分一人では洗えないだろう」 こうして、豪華な王太子専用の風呂場に連れていかれると、藍零は素っ裸にされてしまった。 「見ても、面白くありませんよ。両性の裸なんで」 「そうだなぁ。胸がもう少しほしいなぁ」 「胸!?」 藍零は真っ赤になって、少しだけ膨らみをもつ胸を両手で隠した。 那伊は衣服の袖をまくり、石鹸を泡立たせてとにかく藍零の垢を落とすため、何度も肌を洗ってやった。そして髪も同じように何度もあらってやり、湯船に疲らせてやる。相変わらず、藍零は蒼銀の髪で顔を隠している。前髪が長いため、自然と顔全体を覆ってしまうようになっていた。 「顔を見てもいいか?」 「え」 那伊は、まだ幼い藍零の体を磨き上げたご褒美だとばかりに自分に言い聞かせて、藍零の長い波打つ蒼銀の髪を掻き分けた。 「あ・・・殿下・・・・」 ピチャンと、水音が滴る。藍零が身じろぎしたのだ。 「・・・・・・・・・・これがっ」 那伊は、言葉を失った。 これが両性具有というものなのだろうか。体は貧弱で、僅かに膨らんだ胸に、幼い子供のような少年の陰茎をもった体、奥には少女の証の花弁があるが、そこは流石に藍零本人に洗わせた。 なんという、儚くも美しい美貌なのだろうか。 これが、人間というものなのだろうか。そう瞬きをして、那伊は我に返った。 手が、藍零の胸に当たっていた。 「し、失礼」 「は、はい」 ちゃぷんと、頭まで湯船に浸かる藍零が面白おかしく見えた。ぶくぶくを泡を作る藍零。年はいくつなのだろうか。 「お前、年は?」 「18です」 「18!?私より年上なのか!?どう見ても13歳くらいにしか見えないぞ!」 「か、体が貧相なもので・・・・」 「うむ、確かに貧相だな」 那伊は納得した。胸なんてほんの少し膨らんでいるだけで、その下には肋骨が浮き出ている。がりがりだ。貧相にもほどがある。 顔も少し痩せこけていたが、本当に妖精か女神かというほど美しかった。 貴族や王族が、両性を娶りたがる気持ちが、那伊にもよく分かった。 「お前を私の愛妾ということにする」 「え・・・・そんな、王太子殿下」 「そうでもしなければ、お前は宮殿を追われ、またどこぞの誰かに攫われて売り飛ばされそうだ」 「でも・・・・」 「いいから、後のことはお兄さんに任せない!」 那伊は、自分も服を脱ぐと、広い浴槽にざぶんと浸かった。 少年とはいえ、よく鍛え上げられた筋肉をもつ那伊の体が、藍零にはまぶしかった。 「殿下、私は・・・・兄様は・・・・盗賊団の頭、だったのです。私を貴族に売り飛ばすと・・・でも、私は反抗して地下牢に囚われて・・・・兄様は変わってしまった。人をたくさん殺して・・・・地下牢に囚われた者は、私以外には食事を与えずに飢え死にさせて・・・・殿下、兄様は?兄様はどこに?」 「すまない。盗賊団討伐の任を負ったのは私だ。頭は、お前の兄はこの私が殺した」 藍零は息を呑む。 だが、那伊を責めることはなかった。 「そう。死んでしまったの」 ぽちゃん。 湯船に、藍零の涙の雫が落ちて波紋を広げた。 「すまない。すまない」 抱きしめられて、藍零は涙を流し続けた。あんな鬼畜な兄でも、藍零を捨てた父と母の変わりに。藍零をここまで育ててくれたたった一人の家族だったのだ。 「殿下。ごめんなさい」 藍零は、謝る那伊を抱きしめると、天井を仰いだ。 風呂から上がると、女官を呼びつけて、とりあえず母の衣服を着せたがぶかぶかすぎて、あまりにも滑稽だった。 「こんな豪華な服着れません」 「いいから、とりあえず寸法は測ったので、お前の服が仕上がるまで我慢しろ」 「そんな、殿下!私に服など・・・私は、冠羅ではただの平民でした。殿下と身分の差がありすぎます!」 「関係ないだろう、そんなことは。お兄さんに任せないと言っただろう。私のことを実の兄と思って、安心してこの宮殿で暮らすがいい。後宮には入れない。入れれば父上の毒牙にかかるだろうからな。それに私とて後宮にお前を捕らえたくはない。宮殿で、好きなように生活するといい。城下町に出たくなったら、私が一緒に行こう」 「殿下・・・・・」 藍零は、那伊の優しさに微笑んだ。 「髪が長すぎるが、これでいいのか?」 「はい。髪は切りたくありません」 「ふむ。洗うのが大変そうだが。まぁ、また一緒に風呂に入るか」 ボンと藍零の顔が真っ赤になった。 那伊は、手に入れてしまったこの小鳥がとても愛しおしくかんじた。 「私、歌が歌えるんです。冠羅では酒場の歌姫をしていました」 「そうか。では、今宵から私だけの歌姫になってくれ」 「殿下が望むままに」 NEXT |