空へと還る時







「ああ・・・・藍零。愛しているよ」
「私もだよ、那伊」

那伊王は夢を見ていた。昔のように、二人で城下町に抜け出して藍零と二人きりで町を散策したり、馬に乗って遠出したり。
たくさんの思い出の破片が夢として蘇る。
そえは現(うつつ)のことのようで、本当に幸せであった。

「藍零・・・・いるのか、藍零・・・・」
蒼白い顔で、もう死が迫る那伊王を看取ろうと、たくさんの家臣たちが涙ながらに在位僅か二ヶ月の解放王を見つめていた。
「ああ、見えるよ・・・・藍零。翼を持っていたんだね。そうか、私の歌姫、小鳥だったからね。藍零、そうか、大空を飛びたいのか」

「陛下、しっかり!」
「おいたわしや、陛下・・・・」

「藍零・・・・藍零・・・・」
那伊は、両手を広げて透ける藍零を抱きしめた。
「行こう、那伊!空に還るの!」
「そうか。空に還るのか・・・・」

「陛下?」

立つこともできぬと思われていた那伊王が、突然ふらりと立ち上がったかと思うと、寝台のそばにあった太陽剣を杖代わりにふらふらと歩み出す。

「陛下、どうなされました!」

「そこをどけい!王の命令である!歯向かう者は反逆罪とみなす!」

怒号が、王の部屋にとどろいた。
王は、廊下に出ると、たくさんの家臣たちに囲まれながらも歩きだす。
そして、中庭が見える、空中回廊にくると、空を見上げた。

「藍零。還ろう。空へ・・・・藍零・・・・・」
藍零は翼を広げて、優しく那伊王を抱きしめると、翼を羽ばたかせて天にある太陽を指さす。
「太陽が私たちを休ませてくれるよ。いこう、那伊。愛してるよ・・・・ずっとずっと永遠に。あなたは何も悪くない。私を悪夢から解放してくれてありがとう。さぁ、一緒に行こう!」

「ああ、そうだね藍零・・・・還ろう、空へ」

「王!!」
「陛下ーーー!!!」

家臣た女官たちの叫びも顧みず、空中回廊から那伊王は太陽剣を落とした。地面に吸い込まれていく太陽剣の後を追うように、両手を広げた那伊王は、回廊から落下した。
まるで翼があるようだと、その場にいた全ての人が見た。蒼銀の髪をした乙女が、那伊王を連れ去っていくのを。
那伊王の遺体は、どこを探しても見つかることがなく、結局棺の中には衣装や装身具、それに太陽剣が入れられた。


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