太陽の双子







太陽暦2033年、後に太陽王として真国に名を後世にまで刻む、真那(シンナ)王とその正妃星嵐(セイラン)の弟1子と弟2子にあたる双子がうまれた。
太陽神殿の神託通り双子で、兄妹であった。
兄が王太子となった。だが、問題はあった。妹として生まれたはずの子は、母である星嵐のように、両性具有であった。
姫ということにされたが、王子にするか姫にするかは、両親である真那と星嵐が決める。性別が両性のため、王子として教育するか姫として教育するかで、生まれてきた両性の子も、性格が変わってくる。
すでに神託により生まれてくる王太子の半身は、姫である両性具有と出ていたため、二人は真国の王族に始めて生まれた両性を、姫として育てることに決めた。

真国の王族の、王の始めての子として生れ落ちた双子はそれぞれ、兄は凍李(トウリ)、妹は凍嵐(トウラン)と名づけられた。

乳母も雇われ、健やかに育つ双子の赤子を見守りながら、真那と星嵐はいつも幸せそうだった。

「凍嵐には・・・・僕のように育ってほしいな。僕も双子だから。もっとも、僕は王子として育てられたけれど」
星嵐の言葉に、真那は執務を放り出して、双子の顔を見に来ていた真那に笑いかける。
「姫として育てるさ。他国に嫁がせるつもりはない。せいぜい可能性があるとしたら、両性を大切にする冠羅か」
真那は兄の凍李を抱き上げながら、すやすやと眠っている妹の凍嵐を見た。
「ちょっと気が早くない?」
苦笑気味の星嵐。
それもそうだろう。まだ生まれて1ヶ月もしていないのだ。
今から将来の嫁ぎ先を決めるなんて、早計だ。最も、真国ほどの大国の王女として生まれたのであれば、生まれた時から同盟先などの王子と婚約を結ぶ可能性も否定はできない。
「僕は、でも真那の言葉に賛成。他の国に嫁がせるとしたら、僕の生まれた冠羅の兄様と王妃との間に生まれた王太子なんてどうだろうとか考えたりしてた」

どうか、両性だと忌み嫌われぬような人生を歩まぬなように。
両性を大切にする国に、嫁にいくならいかせてやりたいものだ。

「ああ、お前の兄、花嵐(カラン)の子か。名はなんといった?」
「花莱(カライ)だよ、真那」
「花莱か。ふむ。まぁまぁよい名だな。だが凍李と凍嵐には負けている」
すっかり親ばかの顔で、真那は眠りから目を覚ましたばかりの凍李をあやす。

「ふえ・・・・ふあああん、ふああああ」

凍嵐が泣き出した。
この子は、元気だ。よく泣く。

「お腹すいたのかなぁ」
星嵐は両性であるが、子を出産しても胸は膨らむことはなかった。だが、母乳はでる。一度子に乳をやっている姿を夫である真那に見られて以降、禁止されている。
声を殺すように、布をかんで子に乳をやる星嵐の艶かしい姿に声をなくし、真那は星嵐にきつく、もう自分から母乳を与えたりするなと言い聞かされた。
すぐに乳母が選ばれることになった。乳母は一人にした。そのほうが、兄妹仲良く、争うことなく育つだろう。
最も、星嵐は乳母を雇うことは反対していた。子育ては自分が一切すると。しかし、いざ子が生まれると2時間おきくらいに泣く双子に振り回されて、真那の相手もろくにできない。

乳は山羊のものを哺乳瓶で与えていたのだが、あっちこっちと駆け回る星嵐に放置され続けた真那が乳母を募集し、自分を育てた乳母の一族から乳母を選び、双子の乳母にした。
やっと双子の喧騒から解放された星嵐は1週間だというのにくたくたになっていた。
もっとも、その1週間ほとんど無視してきた真那の、むっすりした顔といったらなんといえばよいのか。

真那は23になったばかりの若い王。5歳違いの星嵐はまだ十代の18歳だ。他に妃も愛妾も持たぬ真那は、星嵐をただ一人の妃と決め、たとえ若くに先立たれても他に妃や愛妾は娶るつもりはなかった。
家臣たちが他国との姫との縁談をすすめてくるが、全て断っている。
もともと、5人いた愛妾たちも元いた国に返したのだ。
愛妾としてこの国に無理矢理嫁ぐことになった星嵐は、時を経てもなお変わらず、真那の寵愛をその身に受け続けている。

乳母に連れられていく双子を見送って、真那は星嵐の手をとって歩きだした。
「何?どうしうたの」
不思議そうに首を傾げる幼い姿のままの星嵐。
正式に婚姻して3年たとうというのに、まだ星嵐は少年のような少女のようなあやふやな、中性的な美貌をたたえたままだ。髪はいつも同じ長さで切り揃えて結っている。
18よりはまだ幼く見える星嵐。両性の特徴だろうか。
両性は、実年齢より若く見えるという特徴を持つ。
何より、星嵐は太陽の子とまでいわれる、両性の中でも至高の水色の髪と、水色がかったオパールの瞳を持っている。

太陽の女神陽緋(ヨウヒ)の色を持ってこの世界に生まれてきた両性具有。現在、冠羅に多くいる両性の中にもこんな色をもった両性は確認されていない。

「どうしたの。あっ」
喉をきつく吸われて、星嵐が真那の纏った衣装をひっぱる。

その耳元で、熱く囁かれる。
「どれだけ待ったか分かるか。半年以上だ。お前が子を身篭ってから。何かあるといけないからと。一度お前は私との子を流している。一度子を流すと、流しやすくなる場合があると医師に固く止められて、お前の体に触ることもほとんどしなかった」
「そ・・・だ、ね」
背伸びをして。身長が低い星嵐のほうから真那に口付けた。


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