里帰り1







双子の凍李(トウリ)と凍嵐(トウラン)が生まれてからというもの、真那(シンナ)は毎日双子の顔を見にきては帰っていく。
執務を早く終わらすのにさらに拍車がかかったかもしれない。

真国は、今一番輝いているかもしれない。
真那は太陽王と民から敬意をもって呼ばれるようになっていた。
正妃である星嵐(セイラン)と出会って、4年が経とうとしていた。

真那24歳、星嵐はやっと二十歳になったばかり。
双子もやっと一歳になったばかりで、まだ歩くこともできない。妹であり両性である凍嵐は、髪は水色、瞳はこれまた珍しくブラックオパールの色を持って生まれてきた。
太陽神陽緋(ヨウヒ)のもつ水色めいたオパール色ではなく、光で色彩を変えるブラックオパールの瞳はとても美しく、宝石よりも輝きを変えていく不思議な瞳の色だった。
てっきり、父である真那は、母親である星嵐の色をそのまま受け継いでいくのだと思っていたのだが、これは外れた。
ブラックオパールの瞳をもつ人間などいない。
同じように、オパール色に似た水色を持つ人間は、星嵐のみ。

陽緋の色を与えられた星嵐と違い、双子の妹姫の凍嵐は、月の神として信仰されている月牙(ゲツガ)という狼がもつブラックオパール色の瞳。
太陽の申し子、両性でありながら、なぜか月の神の狼の瞳の色をもって生まれた凍嵐。
それが吉凶がどうかもいまはまだわからない。
双子は常に一緒に、乳母の元で育てられている。

無論、星嵐も双子の面倒を見るが、たいていの世話は乳母がやっていた。

「凍嵐、きっと美人になるよ」
妹姫を星嵐が抱きかかえ、兄王子である凍李は、真那が抱きかかえていた。
「では凍李はきっと私に似てたくましくなるだろう。凍嵐は星嵐に似てほしいな」
「まだどっちに似るかなんてわからないよ」
「だがこの子は両性だ。きっと、傾国の相になるだろう。ああ、今から心配だ。嫁にいかせるべきか、婿をとるべきか・・・・」
「気が早すぎじゃないの」
「む、まぁそうだな・・・・」

この双子のために、たくさんのおもちゃを買った太陽王真那。少し気が早いのでないかと、星嵐は笑うが、子煩悩でいてくれることはうれしい。

たくさんの愛を注いで、この双子を育ていこう。妹は両性だ。姫として育てるが、本人が望むのであれば物心つけば、王子として育てることも視野に入れている。

「じゃあ、僕、冠羅(カンラ)に里帰りするから、後はよろしくね」
「あ、ああ・・・・・」

子も生まれ、正妃となり、ずっと真国で過ごしてきた星嵐は、兄の花嵐(カラン)に花嫁ができ、子が生まれたと知って本当に心から喜んだ。
一時期は、花嵐は妻とすると決めていた星嵐を奪うように連れ去っていった真那にすさまじい憎しみを抱いていた。
冠羅の国さえ滅ぼしてもかまわない、星嵐を取り返そう。
そう思っていた兄を変えたのは、星嵐が真国で正妃として迎えられ、幸せにしていますと届いた手紙であった。
事実、何度か星嵐の兄の花嵐は、真国へ赴こうとしていた。それを止めたのは両親であり、そして冠羅の国を本当に滅ぼすつもりかという、強い言葉であった。

そして、花嵐が出会った花嫁として他国より輿入れしてきた花嫁の存在も大きかった。

冠羅。
星嵐と花嵐が双子として生まれた愛しい国。
多くの両性具有がこの国では生まれる。稀とされているが、他に国に比べると多すぎるくらいだ。そして、他国で生まれた両性具有を受け入れる唯一の国。
両性具有は、生まれた国によっては奴隷にされたり、さげすまれることがある。それを防ぐために、生れ落ちた子が両性であるならば、冠羅が国をもって受け入れ、育てあげるという決まりが大陸では慣わしであった。
だが、それも完全ではない。

冠羅に送られることなく、貴族に売られ、子を孕ませられて、その子も両性であれば、同じように両性を求める貴族に高値で子を売られたり。両性たちは、その存在故に忌まわしいとされながらも、あまりの美しさに両性を妾や妻にと求める貴族王族は後を絶たなかった。


真国の旗を翻した上等すぎる馬車で揺られて数日。
やっと、星嵐は、生まれ故郷である冠羅に戻ることができた。実に4年ぶりだ。
まずは、父と母に挨拶をして、そしていてもたってもいられずに、実の兄、半身である花嵐のところにいくと、彼に抱きついた。

「ただいま!!」
「おかえり、星嵐」
花嵐は、4年たったというのに、かわらず女性のように美しかった。
「これが僕の妻だよ」
紹介されて、星嵐はペコリとお辞儀をした。
「は、はじめまして。花嵐の双子の弟の星嵐といいます」
「殿下。どうぞ顔をあげてくださいまし」
花嵐が紹介した彼の妻は、まるでふわふわとした陽だまりの中のタンポポのようだった。

金色のふわふわと柔らかなそうな髪に、そして同じ金色の瞳。

貴婦人の中でも、これほどやさしそうな女性を見るのは、星嵐も始めてだった。

「えっと、金蘭(キンラン)さんでよかったんだっけ?」
「ええそうですわ、殿下」
「あ、僕のこと星嵐でいいから」
「では、星嵐殿下」
にこりと微笑まれて、星嵐もつられて微笑んでしまった。


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