星の砂「星の静かな悲鳴」







「愛し続けるさ。この命の灯火が消えるまで」
「たとえその愛で、命の灯火が消されることになっても?」
「彼の愛で消されるなら本望だ。どのみちこの体は不老不死。死などまず訪れない。解放されるには、愛されるしかないんだ。愛が、私を変えていく。私は愛されたい。予備のティエリア・アーデは存在する。私が彼を愛しても別に支障はないだろう?」
「確かに予備は・・・俺も研究施設で眠っているお前さんの兄弟たちにあったが。愛する二人が破滅するのは、見たくない」
「破滅はしない。私が壊れても、ロックオンは私を愛してくれる」
「でもCB側は」
「私を排除することもできない。なぜなら、私はキー。鍵。イオリアの計画遂行の駒は駒でも、チェスでいえばクィーンだ。私を排除する形にすれば、他のスペアは精神連鎖をおこして使い物にならなくなる。処分などされない。だから私はロックオンをCB研究員に反対されても愛し続けているんだ」
立ち上がったティエリアは、衣服を整えると窓から見える宇宙を見つめる。
遠い星。光煌くそれは何百万年も昔に放たれた光。
「脳の劣化を防ぐ薬を処方する」
「ああ・・・・・すまない、世話をかける」
まるで忘れな草の可憐な花のような笑顔に、ドクター・モレノはやるせなくなってスクリーングラスの奥で涙を滲ませた。
「なんで・・・・・だろうな。愛されことが、お前には罪になる」
「さぁ。イオリアは、僕を独占したかったのだろう。だから、わざとこんな風に作った・・・・そうとだけしか、答えられない。でも、構わない。僕は目覚め、ロックオンと出会えた。幸せだよ」
ティエリアは、ロックオンがしてくれた水色の忘れな草の髪飾りを一度だけ撫でると、ロックオンの元に戻った。

ロックオンは、それから数日後、地球に降りた。
ティエリアが欲しがっていた星の砂のオルゴールを買うためだった。オルゴールを買って、ついでにティエリアは花が好きだから長くもつよう植木鉢の花を買って戻る。
「ほら、お前が欲しがってたオルゴールだよ」
「僕、そんなの欲しいっていってました?」
すでに、罅は広がり初めている。薬の効果は薄く、記憶障害が見え初めていた。
「え」
驚くロックオンに、ティエリアは舌を出す。
「からかってみただけです」
「こら〜〜」
「ごめんなさいー」
ロックオンの腕に抱擁されて、買ってもらったオルゴールを慣らす。
綺麗なメロディーだった。
「このまま・・・・死んでしまいたい」
「ティエリア?」
ティエリアは、オルゴールの蓋をあけて、螺旋を回して悲哀のメロディーを耳に焼き付ける。星の砂を砂時計にしたオルゴール。サラサラ零れておちていく、星の砂。
まるで、一つ一つが僕の記憶のよう。
少しずつ抜け落ちていく記憶。

ああ、僕が壊れていく音が軋むように聞こえてくる。
忘れたくない。
あなたのこと、忘れたくない。こんなにもこんなにも愛しているのに。
愛しているのに、それは罪となる。
愛することが罪ならば、愛されることも罪か。

「ティエリア?」
涙を零し続ける白皙の美貌の顎に手をかけて、唇を重ねる。
「あなたのことを忘れたくありません」
「何いってるんだよ」
「いえ・・・・なんとなく、そんな気分になっただけです」
「おかしなティエリア」
ロックオンは明るく笑っていた。本当のことを知っていたら、こんなに明るく笑うこともできなかっただろう。
買ってもらった植木鉢に、ティエリアは毎日水をやって枯らさないようにしていたのだが、植木鉢の綺麗な蒼い花はすぐに枯れてしまった。
ロックオンは、その植木鉢を片付けようとしたけれど、ティエリアがそのままでいいというので、枯れたままティエリアの部屋にずっと置かれてあった。
まるで、いつかくる僕の姿のようで。
ティエリアはよくそのオルゴールを鳴らしてはメロディーを聞いていた。ついには自分で歌をつくり、メロディーにあわせて透明な声で歌いだす。
題名は星の砂。
オルゴールのイメージそのままの歌を、ロックオンも聞いてはしんみりとした気分に何度も浸る。ロックオンとティエリアは、いつも通り毎日同じ部屋で過ごし、愛し合う。
何も、変化など訪れていないように見えた。
ティエリアが何かを隠しているのに、ロックオンは気づかなかった。あまりにもティエリアが自然体であるので、分からなかったのだ。
「ジャボテンダーさんの名前、なんでしたっけ?」
呆けたティエリアに、ロックオンは教える。
「ジャボ子さんだろ」
「はい、正解です」
記憶が抜け落ちたというより、まるでわざとそうして楽しんでいるようにしか、ロックオンには感じられなかったのだ。でも、影で飲む薬の量はどんどん増えていく。
いつまでも、隠しとおせない。
いつかバレてしまう。それでもいい。ロックンの傍に居れるなら。

それから2週間後。
ティエリア・アーデはある武装組織との戦闘中に失踪する。



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