それは神の子ではく「神の子ではない」







パラレル注意。
ヴァンパイアなティエリアとリジェネの双子。ヴァンパイアハンターなニール。

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それは、神の子ではない。
神が創造せし命の、生命の理から外れた存在。

種類はいろいろある。
人工的に作られた生命体、アンドロイド、AI。
けれど、神はそのどれにも等しく愛を注いでいた。
たとえ作られた命であれ、人工の命であれ。
神の愛は無限である。
熱心な神父が説教文句を聖書を開きながらいうように、神の愛は無限である。

だが、それは神の子ではない。
神が創造し命の、生命の理から外れた存在。


「兄さん」
真紅の瞳をした少年が、自分に抱きついてくる華奢な影を抱きしめる。
同じ瞳なのに、その瞳は真紅よりも明るい石榴色だ。
ピジョン・ブラッドのルビーとガーネットの瞳が互いを見つめ合う。
「リジェネ兄さん」
「どうしたんだい、ティエリア」
白磁の肌をした二人は、まるで鏡の中に映っている自分だ。
二人は双子だった。
禁忌の中の更なる禁忌。
神の子ではない命の証のように、血のような色をした瞳が、互いに瞬きあう。

その一族は禁忌である。そして、双子は更なる禁忌である。
二重の禁忌のもとに生まれてきた二人は、産声をあげた瞬間からすでに命の危機にあった。
だが、両親は禁忌である双子の片方を殺すことはせず、双子を慈しんだ。
もともと禁忌である存在の中の禁忌など、もはや意味はなかったのかもしれない。
絶対個数が少なくなっていく中、二人の両親も死んでしまった。
狩られたのだ。
禁忌の命を狩るものたちに。
人の社会で生きようとしたのが間違いだった。

双子は、互いを抱きしめながら、誰も使わなくなった古城に住んだ。
双子の名前はリジェネとティエリア。
神の子ではないのに、本当に愛された神の寵児のように美しかった。
兄であるリジェネは、自分の命を生きながらえられるために、そして生まれつき人の血を飲めないティエリアの分まで狩りをおこなった。
古城から遠く遠く離れた町で、人を襲って殺した。
もう何百人も殺した。
この世に自我を築いて何百年になるだろう。
リジェネは、決して必要以上に狩りをしない。それでも、人間の血は必要だった。
そして吸血行為のできないティエリアが生きていくためには、どうしても人間の血は必要だった。血は膨大な量のエナジーとなる。そのエナジーを、リジェネはティエリアに分け与えた。
血だけでなくとも、自然のエナジーを取り入れることで命はもった。だが、人の生き血のほうが遥かに効率がよく、人の生き血のエナジーなしではティエリアは生きられなかった。
リジェネだけなら、自然からエナジーを取り入れ、生きることができた。多くの同胞がそうしてきたように。

多くの同胞たちがヴァンパイアハンターに殺された。実際に血を吸っているヴァンパイアの数なんて少数だ。それも、命をとるまで血を飲むことはしない。
人の血の中に含まれる嘔吐成分のせいで、血を必要以上に吸っても吐くだけだ。
自然のエナジーを取り入れ、平和的にいきるヴァンパイアたち。
だが、神の子ではなく、生命の理から外れてしまった存在を人は恐怖し、排除しようとする。神父たちは、ヴァンパイアを駆逐することが理想の楽園を築くことなのだと、強く説き回る。

血を吸われた場合、人間は生死の境をさまようが、ヴァンパイアの中でも掟があり、人を殺すということはなくなっていた。
昔のように栄えたヴァンパイアの歴史は、人と共存していたからこそなしえたものなのだ。
その時代も、もう終わった。
あるのは、ヴァンタイアハンターに狩られまくり、絶滅寸前という真実だけ。
それでも、ヴァンパイアハンターたちは止まらない。
ヴァンパイアを完全に滅ぼす。
それが神の使命であるかのように。

ヴァンパイアは盛大な狩りが行われたせいで、今ではもう絶滅したとさえいわれていた。
溢れかえっていたヴァンパイアハンターも歴史から姿を消した。

世界から、禁忌の命は駆逐されたと思われていた。
だが、この五年前から、狂ったように狩りをはじめるヴァンパイアがいた。
必ず、相手を殺す。子供であろうが容赦はしない。
そのヴァンパイアの姿を目撃した者も殺された。
運良く生きながられた者が目にした姿は、女神の化身のように美しい双子だった。
紫紺の髪が肩にまである絶世の美少女と、緩やかにウェーブのかかった紫紺の髪をした絶世の美少年。美少女の方は目が虚空を見ており、自分の意思では立っておらず、美少年が操っつっているようだった。
ヴァンパイアは、人に催眠術をかけたように操ることもできる。同じように、同族も。そうして誘い、血を吸うのが一般的なヴァンパイアの考え方であった。
確かに、そうやって血をすうヴァンパイアもいたが、すぐにヴァンパイアハンターに殺された。
血を吸うヴァンパイアは一番の危険要素だ。
血を吸わぬヴァンパイアも、赤子にいたるまで狩りつくした。
それなのに、まだ残っていたなんて。

「僕は、殺して殺しまくる。僕たちから同胞を奪ったお前たちを、狩り尽くしてやる!」
美少年のヴァンパイアは、真紅の瞳から涙を零しながら、背の真紅の翼を羽ばたかせた。
腕には、片割れの美少女のヴァンパイアを抱きかかえる。

殺戮は繰り返される。
何度も優秀なヴァンパイアハンターが彼らを狩ろうとして、反対に狩られた。

人は、彼らを蔑み、そして畏怖と脅威のをこめてこう呼ぶ。
「ツイン・アズラエル」と。双子の死神と。


ティエリアは、リジェネの唇に唇をあわす。
伸びた牙が、ぶつかり合う。
リジェネは、戸惑いもなしに片割れであるティエリアの首筋に刃をたてる。
「ああっ」
ティエリアが仰け反る。
白い喉。
噛み切ってしまえば、鮮血が溢れるだろう。
自分の物の証だというように、首筋に尖った刃をつきたてて、一口血を飲んだ。
甘い。
菓子よりも砂糖よりも甘く、淫靡な味がする。
そこから、自分が奪った人間の血を凝縮させた生命エナジーを吹き込んだ。

ドサリ。

ネジがきれたように、ティエリアの体が倒れる。
「ティエリア」
リジェネは、泣きながら自分の片割れを抱きしめる。
こんな不完全なヴァンパイアは、リジェネの存在なしに生きていけないだろう。
「ロックオン・・・」
意識を失ったティエリアの唇から出る、最愛の人の名。
リジェネは、ティエリアを豪華な寝台に寝かしつけると、また狩りにいくために窓をあけ、真紅の翼で夜空を飛んだ。

リジェネは、ロックオンという人間を知っている。
今のティエリアという存在の大半を占めている人間の名前だ。その存在が、自分たちと双極をなす、ヴァンパイアとヴァンパイアハンターであることも。



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