ナイトクロス「カナリアの声、再び」







「刹那。久しぶり・・・・」
「ティエリア?」
治癒カプセルから目覚めたティエリアは、開口一番にそう言った。
刹那はとても不安になった。
ティエリアの記憶が、どこか消えてしまったのか。
「覚えてる?僕、カナリア・・・・」
「あ・・・・カナリア?」
「そう。籠の中のカナリア。ロックオンのために唄を歌うカナリア。ティエリアを守る表層人格のカナリア」

昔、まだロックオンが生きていた時代に、ティエリアはある組織グループの下調べを刹那としていて、それがばれて、ティエリアは刹那を逃がすために捕まった。
二ヶ月間行方不明だった。
その間に、ティエリアは自我が崩壊するほどの扱いを受けた。
数々の虐待、レイプ、暴行、拷問・・・・その全てを、ティエリアは自分が築きあげたカナリアという、自我を守るための人格がひきうけた。
辛い出来事の全てを受け、消えてしまったカナリア。
けれど、ロックオンを愛していた。ロックオンに愛されていた。カナリアは幸せだった。

「カナリア・・・・・ティエリアを、また守ったの。ティエリアに、レイプされたときの記憶はないから。カナリアの代わりに、ティエリアを守ってあげて?ナイトクイロスが、ティエリアを守ってくれた。カナリアを呼んでくれたの。カナリアとティエリアが愛したロックオンはもういないから・・・」
カナリアとなったティエリアは涙を流した。
「約束する。守る、から」
「カナリア、刹那のことも愛してる。ティエリアが愛しているから。さぁ、ティエリア、いつまでも眠っていないで、目を覚まして。カナリアが、ナイトクロスが、ロックオンが、刹那が、ライルが、ティエリアを守ったから。ティエリアの辛い記憶は、全部カナリアが持っていくから、さぁ、恐れないで・・・・」
カナリアは目を瞑る。
ゆっくりと、瞳が開かれる。
「刹那?僕は一体・・・・リジェネに捕まって・・・・それから・・・どうしたんだっけ?思い出せない」
カナリアは、またすぐに消えてしまった。
「ありがとう、カナリア」
「カナリア?カナリアって誰?」
ティエリアが首を傾げる。
自我を守るために、ティエリアは自分にカナリアという人格があることさえ、とうの昔に忘れてしまったのだ。

「なんでもない。ティエリア。俺が、お前を守るから」
「刹那?」
深く、キスされた。
「あ・・・ナイトクロスがない」
「俺が持ってる」
ゆっくりと、刹那はティエリアの首にナイトクロスのペンダントをぶらさげる。
「ありがとう、刹那」
「愛している、ティエリア」
「僕も、刹那を愛しているよ」
抱きしめあう。そのまま、またキスをした。

「あー。おっほん」
「ライル!」
「ライル」
「俺も混ぜてもらっていい?」
「何を?」
ティエリアが分からないとばかりに首を傾げる。きょとんとしている。
「俺も、ティエリアを守るから」
ライルにキスされた。
触れるだけの、キス。
「ティエリアは渡さない!」
刹那が、いつもの大人の刹那は何処にいったのか、少し子供っぽい、昔のような表情でティエリアを抱きしめ、離さない。
「上等だ、刹那。ティエリア、愛している」

ギュウギュウと二人に抱きしめられて、ティエリアが声をあげた。
「刹那、ライル、苦しいよ」
「ナイトクロスが、お前を守る。俺が居ない時も、ティエリアを守る」
「刹那?」
「愛している、ティエリア」
「僕も刹那を愛しているよ」
「俺もティエリアを愛している」
「ライルのことも好きだよ」
ライルのことを、愛している、とはっきりはいえないけれど、好きだとはいえる。
ライルには、その言葉だけで十分だった。
「愛されなくても愛するから」
「ライル・・・」
「ティエリアは、ライルには渡さない」
「刹那?今日は、随分子供っぽいね・・・・何かあったのか?」
「いいや、なんでもないんだ」
刹那もライルも首を振る。
カナリアの努力を無駄にしてはいけない。

「そう・・・?」
ティエリアは不思議に思いながらも、刹那とライルに見守られ、愛を受けて、歩んでいくのであった。

---------------------------------------
長編「カナリア」が1期の間におこった出来事で、連鎖してます・・・。


NEXT