血と精霊W「花嫁」







「精霊に銀の武器ってきくんでしょうか?」
「無理じゃね?ヴァンパイアじゃあるまいし。まぁ物理攻撃でも相手も実体化してるからダメージ与えれるけどな」
「うまいにゃー。がじがじがじ。うまいにゃー」
「ってぇフェンリル!何おれの頭かじってるんだ」
フェンリルはとろんとした目でがじがじとロックオンの頭をかじっていた。血がたらたら流れているが、すぐに傷は再生するロックオン。
「フェンリル酒くさいよ」
「うまいにゃああ。めがまわるにゃあああ」
「げ、この果物アルコール含んでるやつじゃないか。酔いやがったか」
頭をフェンリルに齧られたまま、ロックオンは残った果物を口にする。酸味とアルコール特有の味が口内に広がる。かなりおいしい。
ブドウの形をした果物をフェンリルは食べていたのだが、どうにもそれは精霊界特産でアルコールを含んでいるらしかった。王家か貴族くらいじゃないと手に入らない果物だろう。

「エアリアルー」
「はい主」
エアリアルも、精霊界で人の姿をとって実体化していた。長い羽耳はかわらないけど。
「亜空間に放り込んだフェンリルの寝床だしてくれないか」
「ほいさっと」
エアリアルが亜空間からフェンリルの寝床として預かっていた小さなフェンリルのお気に入りのバスケットの籠が現れる。中には羽毛をふくんだクッションがひいてあった。
そこに丸くなって欠伸をするフェンリルを寝かした。

「盟友よ、すまないな兄が勝手に訪問したようで」
クラウンをかぶり、ケープをまとい、さらにその上から毛皮のマントを纏ったジルフェルが現れる。
「あー。あいついつ見てもむかつく。殺していい?」
「いいぞ、別に」
あっさりと肯定する精霊王。
だが、実際に精霊の王族が殺されたとなれば問題がおおいので、ロックオンもこらえているのだ。
「まぁ、実際にイフリエルとの結婚をぶち壊してほしいのだが、他にも頼みごとがある」
「そうくると思った。お前さんの性格からして、ただの結婚問題で俺やティエリアを精霊界になんて連れてこないだろう」
「流石はネイ。腐ってもネイか。いやもう腐ってるか?ネバネバ?ちなみに俺納豆嫌い」
「お前なー!!」
話の腰を折られてロックオンがクッションを投げつける。
「北にヴァンパイアが住みついたんだ。それもかなりの大物が。精霊種族たちが餌食になっている。討伐してもらいたい」
「精霊王のお前でも相手にならないのか?」
「相手を見てみれば、お前にも分かる」
「良かった、ヴァンパイアハンターとして必要な武器も聖水もみんな持ってきてる」
生粋のヴァンパイアハンターであるティエリアには、銀の武器や聖水は命の次に大事なもの。武器なくしてヴァンパイアに太刀打ちはできないこともないが、長期戦になる。

「とりあえず、なんか俺が家出した間に婚姻が明日になってしまった。ということで、代役よろしく、ネイ」
ポンとジルフェルはロックオンの肩を叩いた。
「俺かよ!?」
「この中で男はお前しかいないだろう、ネイ」
ティエリアをちらりと見るが、ティエリアは精霊界にきたヴァンパイアを退治することで頭がいっぱいのようだ。

「まぁ、ちょっと化粧してドレス着ればいいだけだから、大丈夫だ」
「いや無理だろ!俺とお前の体格違いすぎ!!」
華奢な体格のジルフェルと185センチもあるロックオンとでは身長差が20センチ以上もあるし、逞しい体つきのロックオンと中性といってもいい体つきのジルフェルとでは、ドレスのサイズなどどう転んでも同じものを着れるとは思わない。
「うーん。まぁ、ティエリアならなんとか丈が短くなるだけで着れそうだが・・・・」
「だめだ、俺が着る」
ロックオンは断言した。
ティエリアを危険な目にあわせられない。
だが、ティエリアは違う意味として受け取ったようだった。
「ろ、ロックオン、女装がそんなにしたいのか・・・・」

「ちげええええええ!!!」

ロックオンの否定の声はクリスタルの宮殿に反響しまくっていた。


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