血と聖水X「血の神よ、ああ」







「ティエリア・アーデへ。指令だ」
ヴァンパイア協会から、1ヶ月ぶりの指令がきた。
南に住み着いたヴァンパイアロードを殲滅せよとの内容だった。
同じ内容が刹那にもいっているようで、ティエリアはロックオンの待つホームに戻ると、さっそく刹那の鷹が訪れていた。
「刹那は、なんて?」
「我が主、刹那の言葉を告げる。あさってには、このホームに迎えにくるので準備をしておけ、だそうだ。言葉は以上である。失礼つかまつる」
真紅の鷹は、刹那の言葉を、刹那の声色そのままで告げると、ティエリアが開け放った窓から空高く飛び立っていってしまった。

「1ヶ月も指令こなかったのはじめてだなぁ」
「そりゃあれだろ、あれだ」
テェエリアとロックオンのホームにいまだに居候している命の精霊神ライフエルが、指をたてる。
その意味は、彼氏。
「ロックオンが?」
「志願したらしいぞ。お前と正式なパートナーのバンパイアハンターになることを」

「そんな!そんなこと一言も聞いてない!」
「そりゃ毎日ちゃんと帰ってくるから、気づかないのも無理はなかろうて」
「確かに毎日ちゃんと帰ってきてた・・・・」
「ハンターに志願したらしいがのお。愚痴っておったぞ。パートナーとなっても一人の依頼がまいこんでくる上に、協会側は無理難題をぶつけるようなザコから大物までたくさん押し付けて。結局、レッドリストにのってるあらかたのヴァンパイアを殲滅して協会に提出したが、協会側は拒否したらしいな」
「どうして?」
「どうしてとはな・・・・・なぁ、ティエリアよ。お主、忘れておるのではないか。ネイはな、ヴァンパイアハンターになど向いていない。ネイはな、血の一族の神、夜の皇帝だ。今はそうでなくとも、皇帝の血族であり血の神なのだよ。そんな至高な血族がヴァンパイアハンターになれば、裏の協会所属のエターナルどもが黙ってはいまい。実際に、血の帝国の表の皇帝から密使が届き、どうかヴァンパイアハンターなど、辞めてくださいと懇願されたらしいぞよ。それでも辞めぬなら、表の皇帝が自ら出向くと言い出したらしい。そこまで大事になってはな・・・・裏の協会が潰れかねん」

「なんだか分かるようでよく分からない」
ティエリアは、ライフエルの隣のソファーに身を沈める。
「簡単な例をあげてみようではないか。そうじゃの・・・・例えば、精霊神である我が、神でありながらその全てを放棄してただの精霊になるようなもの。そうなってしまえば全てのバランスが、保たれていた上下関係が崩れる」
「ロックオンの場合も?」
「そうじゃ。ネイが、血の一族の神が、よりによってある意味敵であるヴァンパイアハンターなぞになると、血の帝国で保たれていた代々の表の皇帝の地位と、それに基づく均衡がつぶれるのじゃよ。表の皇帝よりも、夜の皇帝のネイのほうが地位は遙かに上。裏のエターナルどもは、表の皇帝を主と仰いでおる。表の皇帝も、貴族たちも、とにかくネイには静かにしていてほしいのじゃよ。ネイは、またいつ覚醒するかも分からん。ネイは今の血の帝国に興味をもっておらん。完全なヴァンパイアハンターは、思考がエターナルも敵であると判断するからの。下手をすれば、矛先が血の帝国に向く可能性もあるのじゃ。表の皇帝は家臣とそして民を守るために、ネイから血の帝国を守らなければならぬ」

「ロックオンってそんなに凄いの?ただのアホだよ?」
「ははは、お主はまだ若いからのお。あれは、あれでも一応はヴァンパイア一族の神であるのだよ。我と同じで神格を所有しておる。だが、血の帝国の者たちは血の神を恐れるだけで崇める性質はない。ネイが精霊であれば、我と同じように精霊神として敬われ、神として扱われていたじゃろうになぁ」
ライフエルは貴婦人の美しい姿のままため息をつく。
「惜しいものよ。ネイには、ヴァンパイアの神なぞより、精霊神のほうが似合っていると思うのだがなぁ」
「ロックオンはあげないよ!」
ティエリアの言葉に、ライフエルは頬に手の甲をあてて高笑いする。

「いやよきかなよきかな。そなたら二人は本当にお似合いじゃ。ネイを支えてやれ、ティエリアよ」
「ロックオンは僕のマスターだもの。それに、恋人だ。僕らは対等だ」
「だそうだよ、ネイよ」
「ティエリア・・・・」
帰ってきたロックオンは、ティエリアの頭を撫でる。
「ありがとな。俺のこと、対等って言ってくれて。めんどくさいからヴァンパイアハンター辞めてきた」

「それがいいじゃろう、ネイ。お前は血の帝国にいないフリーの存在でありながら、ブラッド帝国の脅威でもあるのじゃよ。それがヴァンパイアハンターなど、表の皇帝たちが慌てるのも仕方あるまいて。今まで通り、ティエリアのマスターとして、ティエリアを補佐してやればよい。ただのヴァンパイアマスターなネイ、しかも血族の守る存在がいるのなら、ブラッド帝国の者たちも安心できる。血の神はあらぶれていないとな」
「ライフエル、なんでそんなに詳しいんだよ」
「それはなぁ。まぁ表の皇帝は・・・・今の表の皇帝が気に入っておるのじゃ。よく相談にも乗っておる。即位してまだ3ヶ月・・・・・。寂しくもあろうて」
「表の皇帝がかわったのか?情報が俺にはきてないぞ」
「極秘扱いじゃからの。先代が素晴らしかったからのお。おまけに選ばれたのは幼子じゃ。先代の血を引くという理由で・・・・・」
「イブリヒムの子か・・・あいつに子供がいたなんて聞いた覚えがない」
先代の、血の帝国の表の皇帝の名を、イブリヒム3世という。
500年に一度、皇帝はかわる。表の皇帝は、その血族から選挙で選ばれるのだが、今回はどうにも画策の匂いがする。普通は成人が選ばれる。幼子など選ばれない。

「なんか、波乱ありそーだな。裏のヴァンパイアハンター協会のエターナルはイブリヒムに忠誠を誓っていた。今の皇帝にそのまま忠誠を誓うかどうか・・・・時折貴族どもは反乱をおこすからなぁ」



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