聖棺の中で眠れ「フィフスティエリア」







ロックオンは、CBの中で生活をはじめた。
もう暗殺をしなくてもいいのだという安心感はあったが、ライルに仕送りができないことを話すと、CBのメンバーは金をロックオンに与えてくれた。
何も、完全に閉じ込められたわけではない。
今まで通り外に出れるし、外で宿泊だってできる。
根本的に何をしても自由だった。
ただ、最終的な帰還場所はCB機関の設備であった。

何故自分がマイスター候補とういうものに選ばれたのか理解できなかった。
ヴェーダの指示だというか、なぜヴェーダというものが自分の存在を知っているのか分からなかった。
それを同室の少年・・・・ティエリア・アーデという少年に話すと、彼は語った。
世界にすでに因子は撒かれ、それを回収しているのだと。イオリア・シュヘンベルグという昔にいきた科学者のシナリオ、紛争根絶を実現するために作られたCB。
同時にマイスターとなれる因子をもつ者を、イオリアは世界にばら撒いたのだという。
つまりは、遺伝的な問題なのだと。
何代も前のディランディ家の人間に因子が撒かれ、そしてロックオンはその因子を引き継いで生れてきた。マイスターとなるべくして。
聞いていてばからしくなってきた。
「なんだよここは!狂信者の集まりか?」
「それは違う。イオリアの理念に従い集まったものたちが生み出した機関。いずれガンダムで世界に武力介入するために存在する、それがCB」
「紛争根絶なんて、世界に武力介入する時点で矛盾してるじゃねーか」
「それは認めよう。だが、力なくして平和などありえない」
淡々と語るティエリアは、CBでも同じマイスター候補であり、そしてなによりも特別な存在であった。

「それよりも、朝食にいこうか?」
ティエリアは、ジャボテンダーというぬいぐるみが大好きで、いつもそれを抱きしめていた。
一見するだけなら、かわいい類稀なる美少女。でも、中身は少年。しかも、人の命を命と思わない、ロックオンよりも冷めた機械。
対人戦において、用意された囚人を戦闘不能に陥れることが与えられたミッションであった日、彼は迷わず囚人の喉をサバイバルナイフでかききった。
そう、出会った日のように。
返り血をあびることもなく、痙攣する体にトドメをさし、次々と殺していく。
囚人たちは皆死刑を言い渡された者ばかりで、戦闘訓練のあとは排除されることになっていたのだが、紛争根絶だの世界に平和だのいっておきながら、なんて物騒な機関だとは思ったが、そこに所属するティエリア・アーデもまた救いようのない存在だった。
手を切断され、断末魔の悲鳴をあげている囚人ののどを遠慮もなくサバイバルナイフでかき切る。
命乞いをするものも、救いを求める者も、皆同じに等しく死を与える。
血にまみれながら、ジブリールに見えた天使は明の明星ルシフェルだった。

「逃げたければ、逃げればいいさ。そのかわり、君の弟がマイスター候補として迎えられるだけだ」
その台詞に、ロックオンは脳が沸騰するのを感じていた。
「てめぇ!脅す気か!」
「だって、それが真実だもの」
悪びれもしないティエリアと、Aランチを注文して食べながら怒鳴りあう。
実際にこの機関なら、ライルの拉致くらいやりそうだ。そもそも、もうロックオンに帰るべき故郷などなかった。外に外出してヨーロッパを旅しても、気づくとCBの、皆のいる施設に帰ってきていた。
首輪をはめているわけでもない。飼われていることにかわりはないだろうけど。
研究員も普通の所属している人も、笑顔でロックオンに話しかけてくれる。
認めたくないが、ここがホームになっていたのだ。
それは季節が移り変わるごとに色濃くなっていた。

「ロックオン、昼食にいこうか」
バーチャル装置を使った訓練が終わったあと、いつものようにティエリアが食事に誘ってきた。
ロックオンは、他に親しむ相手もあまりいないので、いつもティエリアと行動を共にしていた。
「あのさ。お前、身長もうのびねぇの?」
気づけば、ティエリアの身長を追い越していた。
「身長なんて伸びない。僕はヴェーダのアクセス機関」
「前から思ってたけど、それどういう意味だ?」
「CBが、ヴェーダをアクセスをできるように生み出した人工生命体。バイオノイド」
からんと、ロックオンの手からフォークが落ちる。
「落ちたぞ」
「冗談きついぜ」
「嘘ではない。なんなら、研究員に聞けば分かる。私の個体NOはNO5、フィフスだ。ここを見ろ」
ティエリアが長い髪をかきわけてうなじを見せる。
白い肌のそこには、GN粒子の光のようにNO5という文字が刻まれていた。

普通に通っていなかった中学や高校のカリキュラム、授業を受ける。ティエリアは興味ないのか受けていない。なんでも、研究員がいうにはIQ180をこえる個体なので、必要ないそうだ。

ロックオンがCBにきて3ヶ月の間相部屋をしていたティエリアだが、本来の自分の部屋に戻った。
「あー。ごめん」
実技訓練をしていた汗を流そうと、バスルームに入った時だった。
ティエリアが相部屋のバスルームで、全裸でシャワーを浴びていたのだ。
「ちょ、まじ勘弁!」
ロックオンは真っ赤になって、飛び出していった。
シャワールームでシャワーを浴びる少年は、本来なら自分と同じ二十歳になっているはずだった。だが、容姿は16、17歳のまま変わらない。
その胸に少女のような膨らみはなかった。だが、下肢にも何もなかった。
ロックオンはティエリアを少女と判断して、逃げていった。
研究員に聞くと、ティエリアは無性の中性であるらしい。どちらの性別にも属さない、まるで本当に天使のようだ。でも、見かけも体のある特徴・・・封鎖空間で男性の性欲処理をするためにも作られたという言葉を聞いて愕然とする。中性でありがながら、セクサロイドでもあった。


二十歳になる頃には、ロックオンはもうCBの一員として溶け込んでおり、改めて自分からマイスターになることを志願した。
他にも幾人か候補生がいるようであったが、ロックオンは変わらずティエリアと行動していた。
他のマイスター候補生とティエリアが行動した場合、いざこざがおこるからだった。相手がティエリアと、そう、この閉じた空間で性交渉を迫り、相手が無理強いに出て、その挙句ティエリアが相手の喉を噛み千切って殺しかけるのだという。研究員も二人ほど、今まで実際にそれで死んだという。ティエリアは貴重な存在であるらしいが、何処かで疎まれているのかもしれなかった。
なぜなら、ティエリアは貴重な存在といわれているわりには野放しにされ、そして与えられる暴行も皆見てみぬふりをしていたのだ。
科学者はCBに所属すると、一生表の世界には出れないという。精神に失調をきたした科学者は、イオリアの申し子、大切なヴェーダとのアクセス装置であるティエリアを虐待する。
誰も、ティエリア本人も何も言わないので、それはさらに加速する。

「このバイオノイドが!お前の変わりなんていくらでもいるんだぞ!このセクサロイドのできそこないが!」
研究員の一人が、ティエリアを暴行しようとして、反撃をくらい、ティエリアの肩を撃ち抜いた。
ロックオンが駆けつけた時、ティエリアは部屋の隅で血まみれになってぶるぶる震えていた。いくつもの傷が生々しかった。衣服なんて、ほとんど引き裂かれて素肌が丸見えだ。
ロックオンはティエリアを毛布にくるんで抱きかかえると、自分の部屋に連れていった。
誰も文句は言わなかった。
ティエリアに関しては、誰も関わろうとしない。
「フォースのようになりたくない・・・・なりたくない・・・・」
ティエリアはぶるぶる震えて、自分の体を抱きしめていた。
「フォース?NO4?」
「そう。以前の僕。フォースは輪姦されて・・・・狂って舌を噛み切った」
ティエリアは泣いてロックオンにしがみついてきた。
「嫌!フォースようにはなりたくない!!」
ロックオンは、ティエリアの怪我の手当てをしようとするが、出血量が半端ではなかった。
「医者のところへ」
「ドクターは・・・・嫌、僕をモルモットにする・・・嫌だ・・・・」
「大丈夫、俺がついてるから。守るよ。ごめん、ずっと気づかなくて。今度からは俺がお前を守る」
「本当に?」
まるで、幼子が母を見るような縋りつく傷ついた瞳で、ティエリアは泣きながらロックオンの首に手を回した。


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